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スーパー堤防って!? なんでしょう ~前篇~

写真①更地化した工事現場 -172kb
(写真は江戸川区北小岩1丁目東部地区・通称18班地区でなされたスーパー堤防工事。
2016年3月に完了し、江戸川区に引き渡されたが・・。)


住まいを奪い こま切れの堤防に巨額を投じる
 スーパー堤防事業って なんでしょう !?   
          文 稲宮須美

「スーパー堤防って、とっくになくなったんじゃないの?」
 と思われている方、多いのではないかと思います。 民主党政権の2010年、
行政刷新会議の事業仕分で、「スーパー堤防は、スーパー無駄づかい」との判定
を受け、「一旦廃止すべき公共事業」となりました。

なぜ、いらない事業と仕分けられたのでしょうか


 それは、1987年に事業化されて20年以上(当時)が経っているのに、なかなか
整備が進まないからです。事業仕分の質疑でも、全部完成するのはいつなのかわ
からないこと、整備途中での効果もわからないことが明らかになりました。一説に
は、400年以上1000年はかかるかも、費用は2兆円とも言われ、とても持続可能な
事業とは言えず、「スーパー堤防より、通常堤防を強化すべき」ということになっ
たのです。
 翌年の会計検査院の発表によれば、その進捗率はわずか1.1%。 11%ではあり
ませんよ、たったイチ テン イチ%です。国交省が報告していた進捗率5.8%は
未完成箇所も入れているデータであることも判明しました。
 そしてこの時以来、「スーパー堤防事業」という公共事業が全国に知れ渡ることに
なりました。 この「スーパー堤防事業」を、国交省は正式には「高規格堤防事業」
と名付けています。 

そもそも「スーパー堤防事業」って、いったいどんな事業なのでしょう


「スーパー堤防」とは、堤防から、その高さの約30倍の幅にわたり、なだらかに
盛り土をし、200年に一度の確率で起きるような、治水計画を上回る洪水が
発生し、その水が堤防を乗り越えてきたとしても、壊れない頑丈な堤防、とされ
ています。 

なぜ、あまり知られていなかったのでしょう


それは、全国各地で行われているダムや道路事業と異なり、「スーパー堤防事業」
が首都圏と大阪圏という、人口・資産が集中する大都市を水害から守ることを目的
につくられた特別な事業だからです。行うエリアはとても限定されていて、対象と
なる川は、首都圏では江戸川・利根川・荒川・多摩川、大阪圏では淀川・大和川。
この6河川の両岸約873kmでしか行われない事業だったからです。
 だった・・、と過去形にした理由は次のとおりです。
その事業仕分けのあと、見直しのために持たれた国の検討会において、利根川が除
かれ、対象は5つの河川の下流域のみ、総計約120kmと大幅に縮小されることに
なったのです。

 「スーパー堤防事業」の知られざる、大きな特徴がもうひとつ


 実はこの事業は、単に国の堤防事業として完結するのではなく、その上に、家を
建て、まちをつくるなど、自治体のまちづくり事業(道路、区画整理などの都市計
画事業)とセットで行うしくみとなっているのです。国によれば、「スーパー堤防事業」
と一体のまちづくりをしたいと手を上げた自治体
で行うとのことです。
 本来、堤防事業は、古い、弱いなど、壊れやすいところから優先的になされるべ
きです。しかし、この独自ルールがあることで、堤防事業にとって最も重要な「治水」
が二の次
になっているのが実状です。
そして、この事業スキームが今、住民のみならず、自治体や国さえも脅かす事態を
招き、事業の根幹を揺るがす状況となっているのです。(理由は後編で。)


写真②北小岩スーパー堤防 -83kb
(北小岩1丁目東部地区では国のスーパー堤防事業が完了し、江戸川区による
宅地造成整備が進む。手前には川幅より広い河川敷が広がる。2017年3月、対岸の
市川市から現地を臨む)


 ところで、「スーパー堤防事業」は、これまでどこで行われ、
今はどうなっているの


 東京では、江戸川沿いは葛飾区・江戸川区。荒川沿いでは北区・足立区・江戸川区。
多摩川沿いでは、大田区・世田谷区・調布市、稲城市・日野市で行われてきました。
それぞれ、河川事務所のHPを見ると確認することができます。

写真③スーパー堤防河川マップ95KB
マップは2006年に江戸川区が発行した「江戸川区スーパー堤防整備方針」の
図に説明文を付け加えたものです)


 そして現在、東京ではJR総武線小岩・市川間の車窓から見える江戸川区北小岩
地区
(江戸川*右岸)で行われています。(*右岸とは川の上流から見て)
国は、江戸川区が区画整理と一緒に「スーパー堤防事業」をやりたいと手を上げたか
らと言い、江戸川区は、国の「スーパー堤防事業」の対象になっているからやりたい、
と言っています。
 対象エリアであっても、ほとんどの自治体が手を上げない中、江戸川区は平井7丁目、
小松川2丁目(いずれも荒川右岸)に次いで北小岩が3例目。
この先も、北小岩から少し
下流の上篠崎(江戸川右岸)で、認可された区画整理や道路、緑地といったまちづくり
事業とともに行うこととしています。この地区では、740年の歴史あるお寺までが480基
のお墓と一緒にわずか数十メートル移転させられようとしているのです。 

なぜ、江戸川区にこんなに集中しているのでしょうか?
 


江戸川区は、2006年、江戸川区として「スーパー堤防整備方針」を策定し、区内を
流れる荒川と江戸川両岸すべてで行うことを決めているのです。こんな方針を持って
いる自治体は他にありません。 江戸川区はゼロメートル地帯が多いからね、と思われ
る方もいらっしゃるかもしれませんが、同じ低地帯の東部の区でも計画はありません


13年12月23日裁判緊急集会67kb
(2013年12月、スーパー堤防取消訴訟第一審判決を受け、「スーパー堤防裁判緊急集会」が開かれた。
会場からは行政、司法に対する怒りの声が次々と上がった。)

 
同じ対象エリアであっても、ほとんどの自治体が手を上げない中、
やる気満々なのは一体なぜなのでしょうか


 そこには、自治体の判断を歪める補助金行政のカラクリが・・・。
2004年、江戸川区で最初に完成した平井7丁目地区での事業費は、わずか1.2haで
総額83億円。
 事業を1mすすめるのに5500万円以上かかる計算です。河川費であるスーパー堤防
事業費全額47億円と区画整理事業費36億円のうちの32億円、計79億円が国費でした。
要するに95%が国の負担
 でも冷静に考えてください。国の負担とは、結局、私たちの税負担です。
 スーパー堤防事業には、本来自治体が負担すべき区画整理事業費までをも国が持つ
スペシャルな国庫負担金が用意されているのです。
 実際、江戸川区は「区費ゼロでまちづくりができる」と再三説明していました。 

 しかし、そうであれば、なぜ他の自治体が手を上げないのでしょうか? 
ここまでの大盤振る舞いがあるというのに・・


 それは、江戸川区で行われている事業の中身を知ればその事情がわかります。
他のほとんどの地区が、それまで人の住んでいない土地をスーパー堤防にして、
新たなまちづくり事業を行っています。
 それに比較すると江戸川区は、長年そこで暮らしてきた住民に自ら家を壊させて
立ち退かせ
、工事の間どこかで仮住まいをしてもらい、宅地造成が完了したら戻って
もらって家を新築させる、という手法をとっているのです。
 移転が何年先になるかわからないことに不安がある人などには、事業の認可もない
段階から先行買収を行うのも江戸川方式です。
スーパー堤防も区画整理も買収事業ではないのに、です。

でも、良いこともあるのではと思う方いるでしょうね


道が狭く、家が古ければ防災上危険。だから、盛り土した上に区画整理で道を広く
して、家を新築すれば、安心な生活と価値の上がった土地が手に入る。移転補償費
も出るし、何が不満なの? そう思う方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし、そうではないのです。
ある日突然話が持ち込まれ、ことは行政主導で進んでいきます。最後まで住民と
の合意に努める、とは言うものの、江戸川区では、最終的に1軒の民家が直接
施行(区が直接解体するという強制執行)により壊されました。
 東京全体で、この四半世紀で8軒しかなかったことです。この強制力は、実は土地
区画整理事業の中で行使できること。
 任意事業であるスーパー堤防事業単体ではなしえないことです。だから、国は自治
体をパートナーとして確保しなければならないとも言えます。
写真⑤街壊しの記録最新版01 -128kb

 愛着のある自宅を壊してから再度戻るまでの期間は3年~4年。代々そこで暮らして
きた高齢の方々にしてみれば、片道切符になることも考えられます。それでなくても望
まない引っ越しを、仮住まいのときと、自分の土地に戻るとき、2度もしなければなりま
せん。
 再築する費用は、それまで住んでいた家の経年数により減らされますから、前と同じ
だけの家を建てようとすれば、自己資金の投入が必要です。
 限定対象となっている下流域は、どの自治体もすでにまちができ、そこで暮らしが営ま
れています。まずは住民に立ち退いてもらうことから始めなければなりません
行政が私人の生活権、財産権に踏み込む事業――。

 こうした現実がある以上、多くの自治体が、国のパートナーとして「スーパー堤防事業」
の片棒を担ぐことに躊躇するのは当然ではないでしょうか。

(*以下は後編に続きます。)    

前篇最後の写真・4日直接施行 93kb

2017・3・21 記 稲宮須美






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Tokyo no Mizu

Author:Tokyo no Mizu
プロフィル

東京都は水道水のほぼ60%を利根川水系・荒川水系に依存しています。
つまり、自給率はほぼ40%。こんな自給率で異常気象や大地震が引き起こす
災害に備えることが出来るのでしょか。
私たちは大変に危うい水行政の元で暮らしています。
これまで東京の河川・地下水の保全と有効利用をめざしてきた市民グループ、
首都圏のダム問題に取り組んできた市民グループらが結束して、
「東京の水連絡会」を設立しました。
私たちは身近な水源を大切にし、都民のための水行政を東京都に求めると同時に、
私たちの力でより良い改革を実践していきます。
東京の水環境を良くしようと考えている皆さま、私たちと共に歩み始めましょう。
2016年9月24日。        
                         

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