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スーパー堤防って、なんでしょう? ~後編~ 

盛り土 113kb
北小岩1丁目東部地区でなされたスーパー堤防の盛り土工事。「絶対安全」と
されてきたスーパー堤防が、何と、やり直す事態に。本文をご参照ください
。)


住まいを奪い こま切れの堤防に巨額を投じる 
スーパー堤防事業って なんでしょう!?  後編 
     文 稲宮須美

なんでこんなに、反対の声が多いんだろう・・
区議会議員になって、初めて私がスーパー堤防を知った時の素直な印象です。
そもそも私は、政治を学んだわけでもなく、議員になりたいなど夢にも思っ
たことがありませんでした。
 議員となったきっかけは、私が加入していた生活クラブ生協に、普通に暮ら
す女性を身近な議会におくる<代理人運動>という取り組みがあったことか
らです。みんなの「代理」で議会に参加する、だから「議員」ではなく「代
理人」。子育てや介護をはじめ、食事をつくったり、ゴミを出したり、PTA
に参加したり、「生活」の中心にいたのは常に女性。当時の専業主婦は全日
制市民とも言われていました。
 地域社会の課題を熟知しているのは女性なのだから、女性こそが決定の
場に出ていくことが社会を良くする―。さらに、同じ人が長く議員をするのでは
なく、交代することで、政治への直接参加の層を広げ、自治する市民を増や
していく―。だからイナミヤさん、次の候補者に、と声をかけられたのです。
 だけど、そんな大それたこと・・。半年ほど断り続けましたが、やがて、こ
うした熱い思いにこたえ、ともにすすんでいくことが今自分のすべきことで
は、と思うようになっていきました。子どもたちは中1、小5、小3という
ときでした。
 

49kb・江戸川区議会議場
(江戸川区議会議場 江戸川区議会HPより)

 そんなこんなで2003年、江戸川区議会議員を務めさせていただくことにな
りました。福祉や教育、生活環境などは生活者の実感から発言しやすいの
ですが、ハードなまちづくり計画などとはまったくの無縁。
けれど、そんなことで避けて通れるはずもなく、議会の「建設委員会」や、
会派に振り分けられる区長の諮問機関「都市計画審議会」の委員になること
に。
 江戸川区がスーパー堤防と一体の道路事業を行うにあたり、2008年、篠崎
地区の道路のルート変更を諮る都市計画審議会には2164通の反対の意見書
が出され、東京都への意見書と合わせればその数は4000以上にもなるとい
う、かつてない事態に遭遇。
住民がここまで反対するスーパー堤防って? という素朴な疑問から、
私の スーパー堤防研究が始まりました

スーパー堤防事業ができた背景には何があったのでしょう?

 それはバブル期の1987年。中曽根政権時代に遡ります。
 当時、経常赤字が拡大するアメリカに対し、日本の経常黒字は巨額になっ
ていました。日米関係のみならず、世界経済の調和ある発展という観点から
も、この是正を命題として突きつけられた日本は、元日銀総裁の前川春雄さ
んを座長に「国際協調のための経済構造調整研究会」を立ち上げました。
 その結果、発表された前川リポートでは「日本の経済構造を輸出に頼ら
ない内需主導型にする」ことを提言。その方策として第一に挙げられたのが
「住宅対策及び都市再開発事業の推進 」でした。
 内容は「住宅政策の抜本的改革を図り、住宅対策を充実・強化する。特に、
大都市圏を中心に、既成市街地の再開発による職住近接の居住スペースの創
出や新住宅都市の建設を促進する。併せて都市機能の充実を図る」というもの。
その具体策が「盛り土によってまち全体の安全性を高め、そこに高層マンショ
ンを建設して住宅難を解消する」こと。イコール、区画整理などの「まちづく
り事業と一体となったスーパー堤防事業
」なのです。
 前篇でもご紹介したとおり、スーパー堤防は河川事業とされながら、実は
「治水」は二の次というわけです。
 そして1990年、海部内閣はアメリカの強い要求に抗しきれずに、10年間で
430兆円もの公共投資基本計画を策定します。その後、更に200兆円が積み増
しされて、13年間で630兆円を公共投資することになりました。
 この基本計画が、まず総額予算ありきで、ムダな公共事業が野放図に拡大し
た元凶のひとつと、多くの人に指摘されています。
 また最近では、スーパー堤防がリニア中央新幹線をはじめ、さまざまな公共
事業から発生する大量の残土を活用する場にされるのではと、国会でも取り上
げられました。

こま切れスーパー堤防 建設地はどのように選ばれているのでしょう?

 江戸川区では、格好の対象エリアをスーパー堤防化しなかったことがありま
した。
 2013年、東京電力が荒川沿いの平井4丁目に所有していた土地を不動産会社
に売却したときです。国交省荒川下流河川事務所とその事業者、江戸川区の三
者で協議がなされましたが、事業者が「開発に支障をきたすから困る」と、ス
ーパー堤防化を拒否したことであっさり見送られ、平地に巨大マンションが建
設されました。大企業には弱く、弱い立場の市民には強く出る行政の姿勢、ま
た、しょせん堤防をつなげる気のない事業であることが、この一件から明らか
になりました。
 また、平井7丁目も、対象エリアの国家公務員住宅が立て替え時期でないと
して立ち退かず、公務員住宅との間に5mほどの絶壁ができ、危険で不完全な
状態のままになっています。


絶壁ができた。79kb
平井7丁目にできてしまった5mの絶壁

さて、スーパー堤防は本当に安全で壊れない堤防なのでしょうか?

 2004年、荒川沿いの北区浮間では、豪雨により崩落。その後もたびたび周囲
の住宅は水害に見舞われました。11年の東日本大震災では、利根川の須賀地区、
津宮地区で、地震の揺れにより堤防の法面(のりめん)崩れや沈下が起こりま
した。
 また、同じ荒川沿いの江戸川区小松川のスーパー堤防の下をボックスカルバー
ト(*下の写真)で通している道路では、豪雨のたびに冠水し、通行止めになっ
ています。雨で通行止めになる江戸川区内唯一の道路がスーパー堤防関連道路な
のです。


小松川ボックスカルバート103kb
スーパー堤防の中にボックスカルバートを入れ、補助122号線を
通しているため、スーパー堤防の起点部分に肝心の盛り土はなく、空洞。
2016年は、8月2日の豪雨で通行止めに
。)

通行禁止17kb
通行止めになった上の写真の補助122号線

「壊れない」「安全」が謳い文句のスーパー堤防ですが、河川からの大洪水どこ
ろか、日常の降雨や地震によってさえ、安全が保たれているとは言えない現実が
あります。土を盛って固めるだけのスーパー堤防は、果たして大都市を守る最善
の方策なのか、疑問は尽きません。
 40億円をかけて延長100m程度の「スーパー堤防事業」を1ヶ所行うならば、
1億円かけて40ヶ所の脆弱な箇所を強化するほうが、流域としての治水効果が上が
り、鬼怒川決壊のような事態は防げるのではないでしょうか?

お金をかけずに堤防を強化する方法がありますが、不思議なことに国は採用
しません


アーマーレビー(鎧をつけた堤防の意)、フロンティア堤防など、土以外の材
料を用いた耐越水堤防工法はすでに確立され、地方の一級河川では有効に機能
していますが、いつの間にかお蔵入りとなりました。期間も短く、費用も安く
行うことができるこの工法はその後採用されていません。なぜでしょうか? 
 理由は、治水ダムを優先していたから。堤防が強化されれば、ダム建設の根
拠を失ってしまうからでした。
 そして今は、土堤原則(古くから、堤防は土でつくることが原則で、異物を
入れてはならないとされている)という、河川管理施設等構造令(政令)にほ
んのちょこっと書かれている原則を基にして、巨大な公共事業「スーパー堤防
事業」が存続しているからです。

さらに驚愕の事実が発覚!
地盤強度不足により、スーパー堤防工事をやり直すことに


 2017年2月、スーパー堤防工事がなされた北小岩地区で、何と、盛り土が完
了したスーパー堤防の地盤が、宅地造成のための地盤強度を満たしていないこ
とが発覚しました。まさに、地権者の方々に、宅地の引き渡しがなされようと
していた矢先のできごとです。
 3月30日の住民説明会では、地区内375ヶ所でスウェーデン式サウンディン
グ試験(地盤調査方法の1つ)による地耐力検査を行った結果、30kN/㎡とい
う宅地造成の基準値を満たしたのが、全体の47%に過ぎなかったという事実が
判明しました。
 強度不足の原因については、基礎地盤にある13%、盛り土にある2%、基礎
地盤と盛り土両方にある2%、さらに地耐力が計測できない強固層が37%ある
とのこと。スーパー堤防の品質管理が大いに問われるところです。
 この調査は、スーパー堤防上に家を建てるにあたり、盛り土への不安を訴え
る地権者の声を受け、盛り土の施行者である国ではなく、土地区画整理事業の
施行者である江戸川区が、安全を証明するために主体的に実施した調査でした。
 つまり、国交省は、スーパー堤防上に家がつくられることはわかっていなが
ら、盛り土完成後、このような検査をこれまでしていなかったということです。
 土を盛ってスーパー堤防さえつくれば、あとは関知しないという国の姿勢、
また、「安全神話」を鵜呑みにするだけで、その証明を求めなかった江戸川区
の姿勢が露呈したと言えます。
 スーパー堤防になれば、安全性が高まり、資産価値も上がると言われて協力
してきた人たちはさぞ驚かれ、不安に思われていることでしょう。
 国と区は、地盤改良や盛り土のやり直しに向け、協議を続けているといいま
す。まずは、行政の責任において、安全の確保に徹底的に努めなければなりま
せん。
18班宅地
北小岩208kb
宅地造成済みの北小岩1丁目東部地区。地権者への引き渡しは年末になる見込み
だというが・・はたして? 上の写真は宅地造成地部分。下の写真は宅地造成地が
奥に見える北小岩1丁目東部地区の全体像


スーパー堤防に反対する人たちが訴訟を起こし、1つの裁判で敗訴、
2つの裁判で闘っています


裁判1 合意形成を図ると言いながら、住民の意思を尊重することなくすすんで
いく事業を何とかしようと、北小岩1丁目の住民は裁判に打って出ました。
 2011年11月、スーパー堤防と一体的になされる土地区画整理事業の事業計画
決定の取り消しを求める行政訴訟が提起されました。実質、スーパー堤防事業の
取り消しを求めたものであり、スーパー堤防関連としては全国で初めての訴訟
した。
 しかし、司法は、被告・江戸川区の主張どおり、区画整理事業はスーパー堤防
事業とは別個の事業とし、スーパー堤防の当否には触れずじまい。
 区は、住民への説明と法廷での証言を使い分けることで裁判をすり抜け、15年
11月、最高裁は上告を棄却、住民側の敗訴が確定しました。

裁判2 この間、第ニの訴訟として土地区画整理の「仮換地処分取消訴訟」が14
年11月提起されました。
 実は、土地区画整理の事業計画では、本来国が行うべき盛り土を、江戸川区が
行うものとされていました。なぜなら、民主党政権によりスーパー堤防事業が一
旦凍結されていたため、事業計画上は区が行うとして体裁が整えられたのです。
それが自公政権に代わり、事業が復活。国がスーパー堤防事業として行う、とし
て協定が結ばれたにも関わらず、区は、土地区画整理法に基づくこの重要な変更の
手続きを行っていませんでした。
 そうした状況下での仮換地処分という行政処分は違法だと訴えたのです。また、
国が盛り土する法的根拠も争点となりました。法に則って執行するはずの行政が、
法の手続きを無視しても差し支えないとの司法判断。現在上告中です。


スーパー堤防裁判所前2017年1月25日44kb
2017年1月25日、「スーパー堤防差止訴訟」判決当日の入廷行進。中央3名が
原告団。右が小島延夫弁護団長
。)


裁判3 そして、住民は14年11月、本丸のスーパー堤防に切り込む第三の訴訟
「スーパー堤防差止訴訟」を起こしました。文字通り、国にスーパー堤防の差し
止めを、また国と区に精神的慰謝料を求めたものです。スーパー堤防築堤は行政
処分ではないため、行政訴訟ではなく民事訴訟となりました。
 この裁判の最大の争点は、任意事業であるスーパー堤防事業を、住民の同意を
得ずになぜ行えるのか、その法的権原は何か、ということ。本年1月、前者は、
すでにスーパー堤防事業は終了したとして却下、後者の精神的慰謝料請求は、区
の管理権限に基づき国が工事を行っているのであり、適法であるとして、棄却と
の判決が言い渡されました。即刻控訴!
 きたる5月23日(火)午後3時、控訴審の第1回口頭弁論が東京高等裁判101
大法廷
にて開かれます。ぜひ傍聴にお出かけください。
住民にとって最後の砦である裁判所。裁判はとかく判決だけが取り上げられま
すが、その内容はお粗末です。裁判長は裁判官の衣を着た、まるで行政マン。
三権のうちの二つの権力がタッグを組んでいては、まっとうな判決はいつになっ
ても望めません。
 理とことばの力に基づいて法の支配を貫徹し、国民の権利・自由を実現する
役割はどこへ?

みなさんと共に考えたいことは・・・

会計検査院や専門機関も「スーパー堤防事業」の事業スキームについての問題
点を指摘しています。そもそも、まちから住民を立ち退かせて堤防をつくるこ
とや、盛り土したスーパー堤防の上に人々を住まわせることが妥当なのか、
そしてスーパー堤防は技術的に確立されていると言えるのか、これまでの事故
や今回の事態を踏まえ、改めて検証しなければなりません。
 国も区も「ご理解とご協力を」と繰り返しますが、昨今国会でも平然となさ
れている「言い換え」によるごまかしと同様、この場合の「理解」とは「あき
らめること」、「協力」とは「損をすること」を求めているに等しいのではな
いかとさえ思えます。
 
  流域住民の安全を守るためにすべきことは何か、ご一緒に考えていきましょう。
                        
 2017・4・5記 稲宮須美 


稲宮さん18kb

稲宮須美さん 三重県志摩町で生まれ育ち、東京の短大を卒業。出版社勤務を
経て、1991年から生活クラブ生協で活動。2003年、江戸川区議会議員に当選
して2期8年務める(写真は当時)。2011年、江戸川・生活者ネットワーク事務局長。
現在、政策委員長。江戸川区在住。

稲宮さんHP http://inamiya.seikatsusha.me/

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Tokyo no Mizu

Author:Tokyo no Mizu
プロフィル

東京都は水道水のほぼ60%を利根川水系・荒川水系に依存しています。
つまり、自給率はほぼ40%。こんな自給率で異常気象や大地震が引き起こす
災害に備えることが出来るのでしょか。
私たちは大変に危うい水行政の元で暮らしています。
これまで東京の河川・地下水の保全と有効利用をめざしてきた市民グループ、
首都圏のダム問題に取り組んできた市民グループらが結束して、
「東京の水連絡会」を設立しました。
私たちは身近な水源を大切にし、都民のための水行政を東京都に求めると同時に、
私たちの力でより良い改革を実践していきます。
東京の水環境を良くしようと考えている皆さま、私たちと共に歩み始めましょう。
2016年9月24日。        
                         

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