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水道事業民営化について 往復書簡

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昨年2017年3月7日。水道民営化法案が閣議決定

しかしご存知の通り、テロ等準備罪、いわゆる共謀罪などの重要法案が目白押し、さらにモリカケ問題が紛糾して、昨年の国会では継続審議となりました。
政府は、今(第196)国会で水道民営化法案(改正水道法)の成立を目指す模様です。

以下の水道事業民営化に関する往復書簡は、2017年の閣議決定を受けて、利根川流域市民委員会のグループメール内で繰り広げられた討論です。
メール書簡は2017年3月24日から同年3月29日までの間にやりとりされました。
公開にあたり、メール執筆者の了解を得ています。

河登(かわと)から みなさまへ

みなさま
「水道の民営化」を「憂慮される」と云われますが、私は原則として民営化は良いことだと考えます。

具体的には契約内容をキチンと見ないといけませんが、一般論として言えば、このような公共事業も運営は民に任せる方が、官が実行するよりはるかに合理的だし効率的です。

公共事業を民に任せると、「儲けが重要なので、料金値上げや仕事の手抜きなど悪事を行なう(恐れがある)」という考え方はありますが、それは事実ではないケースが多い、と思います。民に任せれば、創意工夫をしてムダを排除し、今までの事業運営よりコストを下げ、且つ運営/サービスも改善するのではないでしょうか。それでも儲かるから、官の支出は(大幅に)減るでしょう。

「欧米でその逆の実績がある」のが事実なら、それはそれで何故そうなったのか詳細に調べないと何とも言えませんが。

勿論、民の方が良いのは「公正な競争」がある場合ですから、民間委託しても「20年間運営権を任せれば」まさに現在の地域独占の電力会社のように悪いことをする面はあります。
それでも電力事業を官に任せたら現状より改悪すると思います。或いは鉄道や郵便事業、通信事業、専売事業(いずれも民営化は不充分ですが)を再び官営化すれば改悪でしょう。

その意味では水道事業の運営も同じだと思います。

敢えて言えば、水利権も治水も(うまく)民間に委託すれば、八ッ場ダム(をはじめとするムダなダム)は作らないのではないでしょうか。

これは政治哲学の問題ですから、異見はあるでしょうが、「民営化=改悪」ではないことを、自由主義経済の視点から敢えて反論しました。
河登一郎


河登さまへ  高橋です

河登さま
【これは政治哲学の問題ですから】とありますが、
 水道民営化の是非については、既に様々な社会実験が行われており、解決ずみの議論だと思います。政治哲学の問題ではなく、社会科学の問題だと思います。
(参考資料)ですが、
~~~~~~~~~~~
橋本淳司
『必ずや失敗する「水道民営化」100兆円の水ビジネス参入』
http://smart-flash.jp/sociopolitics/17619

『再公営化の動向からみる地方公営企業の展望
札幌大学地域共創学群法・政治学系教授 宇 野 二 朗』
http://www.toshi.or.jp/app-def/wp/wp-content/uploads/2016/05/reportg25_2_1.pdf

ドイツにおいても、「官から民へ」というスロー ガンは、1990 年代には、都市インフラの民営化を唯一の回答として提示し、議論の余地 を与えなかったと言われる。
しかし、その後のドイツの再公営化の経験は、都市インフラ の問題は、各地でもっと論じられるべき問題であることを示唆する。
節約や成長といった 経済合理性の観点からだけでなく、環境保全の観点や、社会的な観点、さらに、自己決定の観点などの間でのバランスをその地域の住民が自ら模索することは、地方自治の発揮そのものと言える。
~~~~~~~~~~~
 麻生太郎氏や小泉純一郎氏のような考え方は、周回遅れだと思います。

【敢えて言えば、水利権も治水も(うまく)民間に委託すれば、八ッ場ダム(をはじめとするムダなダム)は作らないのではないでしょうか。】とありますが、

 ゼロから委託すれば、儲けがでない事業は誰も受けないということになりますが、今、行われている民営化は、コンセッション方式(注1)ですから、民営化は歯止めにはならないと思います。

「現代生活に不可欠な電力供給が民営で問題ないのだから、水道が民営化されても問題ない」という意見が結構説得力を持つと思われます。

 しかし、電力の民営は問題があったと思います。
 電力が公営なら、2011年の事故は起きなかったと思います。公営企業が国民を洗脳するために、莫大な額の広告費を使うことはできなかったはずです。裏金で工作することもできなかったはずです。

 民営化の大きなデメリットは、情報が開示されない
ことと、民意が反映されないことです。
民営化にもメリットはあるでしょうが、そして公営にも非効率や親方日の丸といったデメリットもあるでしょうが、私たちは、命の綱の民主的コントロールという価値を最重視して考える必要があると思います。
高橋 比呂志

注1 コンセッション方式 : 浄水場などの施設の所有権は自治体に残しながら、運営権を企業に売却する方式。官民連携方式ともいわれる。
 
RIMG0342東村山浄水場116kb
(写真は東村山浄水場)

河登から みなさまへ

みなさま
水道民営化は評判が悪いですね。
確かに一定期間「公正な競争原理」が働かないことは事実です。

しかし、「税金で作ったものを企業に渡すのは犯罪」など、よく感情的な表現は主張する人がいますが、これは見識が低すぎると思います。
正当な対価を払って(売り手も納得した上で)譲渡するわけです。犯罪とは全く関係ありません。

企業は長期的な収益を最大化することが目的ですから、本来は一時的な利益には走らない「はず」ですが、特に外国企業の場合、一時的に収益を貪る恐れがありうるとは思います。

いろいろ指摘されている問題点には、それぞれ対応策があるとは思いますが、私は「原理主義者」ですから具体案を提案するノウハウはありません。

浜松での事例(注2)がうまく行くことを、そしてそれが広がることを願うばかりです。

追伸
読み直してみたら(注3-1)、この方(ビナードさんか、)(注3-2)も「石木ダムを民営化すれば白紙撤回」、と「民営化」の意味が分かっておられますね。
八ッ場ダムもその他のムダなダムやムダな公共事業についても同じロジックです。

この会では、自由経済に対して批判的な意見が多いようですが、「自由主義経済」は世界中の碩学があらゆる面から研究をしている立派な哲学です。
ノーベル経済学賞は1968年にでき、50年近く経ちました。この間ほとんど毎年、これまでに40名前後の学者がノーベル賞をもらいました。
私は全部読んだわけではありませんが、このほとんどは自由経済のメリット及びそれを前提とした組織論や分析が多い。

自由主義経済の限界に触れた主張もありますが、だから「計画経済が良い」とか「公営企業の方が優れている」と云った主張は(あまり?)ないと思います。

当会でもこの種の問題について、より自由な議論が行われることを希望します。
河登一郎

注2 浜松での事例  浜松市では、2017年の10月に世界3大水事業メジャーのひとつフランスのヴェオリア社と契約し、下水道の運営を委託。2018年の4月から実施されることになっている。
更に、ヴェオリア社は広島県と埼玉県で下水道の維持管理に関する包括的権利、千葉県で下水道施設、福岡県と熊本県で上水道施設の維持管理を請け負っている。また東京都でも下水道運営権の民間への売却を検討中と伝えられている。


注3-1 読み直してみたら
この往復書簡の間に、嶋津暉之さんが、『水道民営化の問題について「八ッ場ダムをストップさせる埼玉の会」の3月23日のブログに、アーサー・ビナードさんの講演ビデオが掲載され、その講演要旨が記載されていますので、お知らせします』というメールを配信。
以下はそのブログに掲載されている、ビナードさんの講演要旨。
~~~水道法が改正されると水道施設の運営を民間企業に委ねられる。
言い訳→「水道施設が老朽化し直すのに莫大な費用がかかるので民間の資金で。民間になれば競争原理が働いて安くなる」
利益を追求するのが企業。質がとわれているのに安全性より利益が追及されるので、一企業に支配されたらいけない。競争原理が働かないインフラ。水道では競争しようがない。税金で作ったのを企業に渡すのは泥棒。
最初はみかけで安くしても値上げしてしまう。ウォール街の多国籍企業が経営したら誰が責任取るのか。
長崎の石木ダムの予定地に行ってきた。あそここそ民営化すべきで、そうしたら白紙撤回になる。
利益がでそうなところが民営化されようとする。水が贅沢品になる。
被害が出たら税金、儲けた時は民間。最終的には僕らが大損。
止めたいですね。~~~
河登さんが、この記事を「読み直してみたら。」ということです。

注3-2 ビナードさん:アーサー・ビナードは、アメリカ合衆国、ミシガン州生まれの詩人・俳人、エッセイスト、そして翻訳家。広島市在住、妻は詩人の木坂涼。2001年、詩集「釣り上げては」で中原中也賞受賞。講演などでは流暢な日本語で広範囲の時事問題を語っている。9条の会会員。

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(写真は小平ふれあい下水導館。下水道への入り口)

河登さまへ  まさの

河登さま
そもそも公営事業こそが、最小限の資源で最大限の効果を発すべきで、
確かに現状では、民営化されれば、八ッ場ダムだって止まるでしょうけど
公共事業のあり方を、ほんとうに必要なものに対して皆でお金を出し合って作るという本来のあり方にするための話が抜けた形で、
「儲からない公共事業は民営化すれば問題が解決する」ということを言えば、そ
れはミスリードになってしまう面があると思います。
日本の民営化はそもそもインチキなものが多く(すべてが失敗しているわけではありませんが)、国鉄と高速道路については、検証が必要ではないかと思います。
私自身はまったくそこまでいきませんが・・・
まさのあつこ

まさのさまへ 河登

まさのさま、コメント有難うございます。
「民営化すればダムがなくなる」は、民の目線で判断すればムダなダム(や有明海のギロチンやリニア新幹線・・・)への出費は止めるという意味を比喩として申し上げたまでで、現実には官がやるわけです。

確かに民営化すれば良いわけではありません。ご指摘の高速道も本来の民営化ではなく、みそもくそも同一勘定で括ってしまったので、儲からない高速道は止める、という力が働かなくなってしまったのです。

民営化もやり方次第です。
河登一郎

河登さまへ 高橋です

水道民営化の是非について。
民営化すれば、民間事業者は「収益を上げるために」、水道設備の所有者であり事業の依頼主である行政や市民の目的に従って、民の強みであるコスト削減とサービスの改善に全力を挙げる、という面があります。

企業性善説ですが、現実は違います。
 日本の大手銀行は、カードローンでサラ金と同じことをやっています。0.1くらいの金利で資金調達し14%で貧乏人に貸し付けています。

世界の水メジャーもハゲタカ企業です。
 貧乏人が水を飲めるか、なんてこれっぽっちも考えません。
 従業員の給料を下げるなどしてコストカットしても、浮いたカネは株主の配当に回ります。サービスの改善に回したら、社長は無能扱いされ、首が飛びます。

住民サービスを向上させてもさせなくても、同じ料金を徴収できるなら、向上させないことになります。

行政が監視すれば水道を民営化しても問題ないと言いますが、監視で解決するなら、ここ15年間のあいだに35か国で少なくとも180件の再公営化が起きた(注4)ことをどう説明するのでしょうか。
 前車の覆轍は後車の戒也といいます。どうして外国の失敗事例に学ばないのでしょうか。
高橋 比呂志

注4 180件の再公営化 : フランスの首都パリでは、ヴェオリアとスエズ(フランスの水事業メジャー)がコンセッション方式で水道事業を運営した結果、14年間で水道料金が2.5倍に跳ね上がり、2010年に再公営化された。         
  同じく首都ではドイツのベルリンが2013年、マレーシアのクアラルンプールで2014年に再公営化。
アトランタ市(米)でも2003年から再公営化。
南米ボリビア、ペルー、アルゼンチンでも民営化に失敗するなど、世界の180の自治体が水道の再公営化の道を歩んできたという。


高橋さま  河登です

厳しいコメント拝受しました。私見下記。

1) 銀行の貸出経費は借入金利だけではなく、支店を持ち従業員を抱え不良
債権の償却もありますから、返済に危惧がある借り手に対する金利はそれなりに高くなるのは当然です。

返済不能の恐れがあるような人に低利で貸出すべきだと考えるなら、それは銀行業務ではなく、社会福祉政策として行政が担うべき分野です。
それにしても返済に危惧のある人に14%で貸せているとすれば(私は実態を知りませんが)、やはり大銀行間の競争もそれなりに厳しいのかもしれません。

とは云いながら、銀行は最近合併をして競争が減っていますから行き過ぎはあるでしょう。だからこそ、合併の繰り返しを認める現在の金融行政政策は間違っていると思います。

自由には間断なきチェックと公正な競争が不可欠です。

一方、銀行の「横暴」を止めるために金融機関を官営にすれば、安い金利で貧乏人に貸出すでしょうか。全くそうはならないでしょう。このことは歴史的にも多くの国で実験されているのではないでしょうか。

もっとも国によっては、銀行業務と福祉政策が混在している国があるのかもしれませんが、それはトータルとしてムダの温床だと思います。

2) 水道業界にハゲタカがいることは私も時々耳にします。
しかし、一度儲かった世界中の水道事業を「再公営化」に投げ出すのは何とも無能な経営者たちですね。

本当に世界中で再公営化が進んでいるのなら、それはそれなりに理由があるのでしょうし、そのことは真摯に反省が必要ですが、本当の禿鷹なら「再公営化」に投げ出さないでうまく稼ぎ続けると思います。
そのためには、安全と健康と水道料金にも配慮しなければ儲け続けられません。

もっとも水道事業に関しては、最初から申し上げているように、一定期間「競争」が埋没するので、短期的な利益を得やすい環境にあることは事実だと思います。

しかし長期的収益を極大化するのが目的のハゲタカが、短期的な利益をギラギラさせて、世界中の水道事業を「再公営化」させる理由が私には分りません。
それはホンモノの自由主義ではありません。にせものはどんな社会にも必ずいます。

私は浜松の業者がどんな事業者か知りませんが、ホンモノの自由経済人であって欲しいと思います。そして正しい民営化を日本中に拡げて欲しい。日本のバラマキ財政を救って欲しい。
この問題はいわば永遠のテーマです。ある程度のリクツの積み重ねで論敵を説得できるような生易しい問題ではありません。
ですから、私の主張はこれで打ち留めたいと思います。
河登一郎

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メール執筆者プロフィール

河登一郎(かわと いちろう)
商事会社勤務を経て現在は「構想日本」「八ッ場あしたの会」などで市民運動に積極的に関わっています。
高橋比呂志(たかはし ひろし)
地方公務員在職中に住所地に計画されていた南摩ダムと東大芦川ダムの必要に疑問を感じ、ダム問題に取り組むと同時に、河川環境の保全に関わっています。
まさの・あつこ ジャーナリスト。
著作は「4代公害病 水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害」「水資源開発促進法~立法と公共事業」など多数。現在、休筆して衆議院議員政策担当秘書として活動の場を国会へ。

これから
東京の水連絡会では、この往復メール書簡を嚆矢に水道民営化問題を取り上げ、よりよい水行政を求める立場から検証を重ねてまいります。
                          
文編集 山本喜浩

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Tokyo no Mizu

Author:Tokyo no Mizu
プロフィル

東京都は水道水のほぼ60%を利根川水系・荒川水系に依存しています。
つまり、自給率はほぼ40%。こんな自給率で異常気象や大地震が引き起こす
災害に備えることが出来るのでしょか。
私たちは大変に危うい水行政の元で暮らしています。
これまで東京の河川・地下水の保全と有効利用をめざしてきた市民グループ、
首都圏のダム問題に取り組んできた市民グループらが結束して、
「東京の水連絡会」を設立しました。
私たちは身近な水源を大切にし、都民のための水行政を東京都に求めると同時に、
私たちの力でより良い改革を実践していきます。
東京の水環境を良くしようと考えている皆さま、私たちと共に歩み始めましょう。
2016年9月24日。        
                   
      

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