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水道民営化で世界の都市が舐めた辛酸  その3 インドネシアの首都ジャカルタ

ジャカルタの街
(現在ジャカルタでは、2019年までに水道水100%飲料可能に、スラム街をゼロ、下水道100%整備をめざす、100-0-100運動が展開されている)

パリ市にならってテムズ社とスエズ社で水道事業を2分

インドネシアではスハルト第2代大統領[注1]が、1995年半ばに民営化を急ぐよう指示し、ジャカルタの水道公社(パムジャヤ)は1997年に民営化されました。東地区をRWE・テムズ社[注2]、西地区をスエズ・オンデオ社[注3]という2社が担うことになりました。
 1997年に交わされた民営化の契約では2社に原水の供給から料金の請求に至る、広範な事業運営権が与えられました。規制当局、世界銀行もこの契約はコンセッション契約であるとしていますが、財政的なリスクはパムジャヤが引き受けることになっており、民間事業者に手厚い契約内容となっています。また、パムジャヤ側から契約を打ち切る場合には、
• 外国企業が行ったすべての投資。
• 保険の費用。
• 残存する契約期間について、その半分の期間に得られる税引き前の収益額を補償することとなっています。
[注1]スカルノ独裁体制を1968年引き継いだスハルト軍事独裁体制は開発独裁政権とも呼ばれ、インドネシアの工業化を目指し外資を積極的に導入しました。
[注2]テムズ社、イギリスの水事業メジャー。
[注3]スエズ社、アトランタでもブエノスアイレスでも登場したフランスの水事業メジャー。インドネシアにおけるロビー活動でテムズ社に遅れをとっていたが、猛烈なロビー活動で巻き返してスハルト政権に取り入り、ジャカルタをテムズと2分しました。


ジャカルタの民営化の実態

 契約時には2002年までにジャカルタ市民の70%に水を供給できるようにするとされていましたが、7年間の間、目標のほとんどが達成されませんでした。
2000年でも、水道普及率は目標の63%に対して48%でした。民営化が開始されて以来、パムジャヤが徴収した料金収入は、パムジャヤが委託費として両社に支払ってきた金額を常に下回っています。
2社はそれを水道料金引き上げの口実に利用し、2004年までに料金は3倍になりました。にもかかわらず2006年には2社が水道事業からの撤退を希望し、他社に株式を売却。契約内容はそのまま新しい会社に引き継がれました。
このような契約は多国籍企業が苦境に陥っている公営企業と途上国の地域社会から、いかに容易に利益を上げるかを物語っています。
この一種の食い逃げはブエノスアイレスでもスエズ社が行った手口です。これは水道事業に関してテムズ社やスエズ社の技術が長じていることよりも、永年の植民地支配で取得した契約に関するノウハウに長じていることの方が大きいでしょう。契約書の裏表を自在に操り発展途上国や世界の都市を翻弄してきたのです。

 また、雇用に関しても民営化により待遇の悪化が目立っています。ジャカルタでも1000人の職員が一時解雇[注]されたり、劣悪な労働条件により自主的に退職した人も多くいました。
[注]水道民営化は労働者の解雇が必ずセットになっていることは、アトランタとブエノスアイレスで証左されています。

再公営化への市民の闘い

このような状況の中、民間企業が水道事業を担っている現状を問題視する市民団体が、
①水道料金が割高に設定されている。
②水道整備事業が遅れている。
この2点を柱に訴訟を起こしました。また、新たに立法された水資源法に対しても、NGOや地域住民のグループなどが5件の訴訟をが起こしています。
インドネシアの憲法では、人々の生存に不可欠な事業はすべて、国家によって所有されなければならないと定めていますが、新たな水資源法では民間セクターが水資源管理を1手に引き受けることができることとなり、憲法に違反すると訴えました。
2012年ジャカルタ地裁では、水道の民営化は憲法違反であるとの判決が出ました。
しかしジャカルタ高裁では地裁の決定を覆し、政府の方針(水道事業の民営化を進める)を認める決定がされたため、最高裁で争われることとなりました。
2017年最高裁は、水道民営化の停止と、人権としての水を保証するために公共水道を回復させることを命じる判決をくだしました。
この最高裁の判決で水道事業の再公営化が図られることとなった訳です。
この最高裁判決が出て、それが公になる前に、水事業メジャーは株式を他企業への売却。あざやかにも(?)ジャカルタから売り逃げています。

それでも続く、インドネシアの水道事業の民営化
 
ジャカルタでの民営化が惨憺たる結果であったにも関わらず、インドネシアの数百もの水道公社を民営化することが決まっています。水道公社の多くは債務と管理不行き届きのためにうまくいってないところが多いのが原因のようです。
世界銀行[注]が実施している「都市水道・衛生改善」プロジェクトでは、水道公社を健全化するプロジェクトを数社で実施しています。このプロジェクトが完了するとこれらの水道公社は民営化される可能性がきわめて高くなります。これではまるで民営化のために健全化というお題目を唱えているだけだと指摘されても仕方がないでしょう。
[注]水道事業でみる限り、世界銀行は融資の条件に民営化を勧め、欧米の水メジャーが進出しやすくするためのお先棒を常に担いできたといえます。


ウオータサーバー
(ジャカルタの一般家庭には、かならずこのような
ウオータサーバーが置かれているそうです。蛇口から水道水が飲めないからです。)



数ある水道公社の中には業績を上げている公社もあります。例えば1929年に設立されたソロ水道公社では、健全な財政運営の中、水源地周辺の環境と近隣地域社会の保全にも努めています。他の水道公社と違い、活発な消費者グループが重要な役割を果たしており、苦情や要望に対しても適切な対応がされています。
将来はこのような消費者を巻き込んだ水道公社の運営や管理の手法が他の公社にも取り入れられるべきでしょう。
                                                                                                      
                          文まとめ 川合利恵子

そして現在日本では

「水道法の1部を改正する法律案」(平成30年3月9日提出)が、2018年6月29日より衆議院厚生労働委員会において審議が始まり、7月5日、大急ぎで衆議院を可決。参議院に送られました。
水道の広域化と民営化を推し進めるこの重要法案をメディアはあまり取り上げません。地方自治体の選択の問題と軽く考えているのでしょうか。海外の水ビジネスメジャーから見れば、この法案は日本の都市部に進出するチャンスを与えてくれる法案でもあります。

~参考文献~
これまでのアトランタ、ブエノスアイレス、ジャカルタの上下水道事業の再公営化に関する経緯は、以下の著書を参考にしました。
「ウォーター・ビジネス」モード・バーロウ著、佐久間智子訳。2008年作品社刊。
「世界の水道民営化の実態―新たな公共水道をめざして」トランスナショナル研究所編、佐久間智子訳、2007年作品社刊。
「世界の水が支配される!―グローバル水企業の恐るべき実態」国際ジャーナリスト協会編著、
佐久間智子訳。2004年作品社刊。
この他に、各国、各都市の政治形態、経済状態、現状などを紹介している多くの著書やウエブ上の記事を参考にしています。

2018・7・9記


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Tokyo no Mizu

Author:Tokyo no Mizu
プロフィル

東京都は水道水のほぼ60%を利根川水系・荒川水系に依存しています。
つまり、自給率はほぼ40%。こんな自給率で異常気象や大地震が引き起こす
災害に備えることが出来るのでしょか。
私たちは大変に危うい水行政の元で暮らしています。
これまで東京の河川・地下水の保全と有効利用をめざしてきた市民グループ、
首都圏のダム問題に取り組んできた市民グループらが結束して、
「東京の水連絡会」を設立しました。
私たちは身近な水源を大切にし、都民のための水行政を東京都に求めると同時に、
私たちの力でより良い改革を実践していきます。
東京の水環境を良くしようと考えている皆さま、私たちと共に歩み始めましょう。
2016年9月24日。        
                   
      

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