水道民営化の源流11・みやぎ県の水道民営化 第3話
- 2022/02/04
- 16:24

麻生太郎副総理・財務大臣が米国で「日本の水道を民営化します」と満面の笑顔で宣言しました。
宣言したのは、米国の民間シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の会見に登壇してのこと。以下はその発言です。
「……水道とかいうものは、世界中ほとんどプライベートの会社が運営しておられますが、日本では自治省以外では扱うことはできません。」(中略)
「(日本では)この水道はすべて、国営もしくは市営、町営でできていて、こういったものをすべて民営化します!」
麻生副総理の発言には間違いがあります、「自治省」は自治体の間違い。そして「世界中のほとんどでプライベートの会社が運営して」はとんでもない事実誤認です。
この時点で民間事業者が水道の供給をしているのは全世界の12%にすぎません。しかし、これは麻生副総理が意図的についた嘘かもしれません。
そして何より問題なのは、国会でなにも議論されていない水道民営化を日本の既定路線のように語ったことでしょう。許し難い発言です。
ところで、この「戦略国際問題研究所(CSIS)」なるシンクタンクは米国の新自由主義的な改革を推進するフロントランナーということですから、民営化を語るにはうってつけの場所でした。
ところで、なぜ新自由主義が世界に浸透し続けたのでしょうか。
新自由主義を育てた2つの要因があります。
1つは、1970~80年代に欧米はインフレが進むにも関らず不景気が続く、いわゆるスタグフレーションに陥りました。
通常、景気が上昇している時には緩やかなインフレになります。ところがこの時代には、政府が打ち出す景気刺激策はいずれも空振りに終わり、インフレにも関らず不景気(スタグネーション)から抜け出せませんでした。不景気とインフレを合わせた造語、スタグフレーションが「政府は手を引き市場に任せよ」の新自由主義を活気付かせることになりました。
2つ目はソ連の崩壊、これが決定的な要因です。
ソ連の計画経済の破綻により、小さな政府による市場任せこそが万能という新自由主義が神話に格上げされました。また、国内の共産化を恐れて福祉型国家を築いてきた西側諸国は、ソ連の崩壊を機に福祉政策の削減に走り、今日の格差社会を広める結果となりました。
待ち構えていたヴェオリアが宮城県に上陸しました。
日本に上陸する前に、ヴェオリア社は世界各地でさまざまなトラブルを起こしてきました。その数例を挙げます。
1996年、オーストラリアのアデレード市全域が15か月間にわたり悪臭に包まれました。ヴェオリア社が下水処理場の管理を怠ったのが原因でした。
2004年、アフリカのガボンで史上初めてチフスが大流行したが、その原因はヴェオリア社の水道事業に問題があったのではないかと言われています。
2004年、ルイジアナ州ニューオーリンズ市は5年の歳月と600万ドル近くの経費をかけて調査した結果、ヴェオリア社の水道事業に問題があるとして契約を撤回しました。
以上はほんの一例です。
また、ヴェオリア社は2021年の5月、水メジャーのスエズ社(仏)を傘下に収めましたが、スエズ社も世界各地でトラブルを引き起こしています。以下はほんの一例です。
1998年、インドネシア。スハルト大統領の辞任と共に、暴利を貪っていたスエズ社の重役は民衆の糾弾を怖れてチャーター機でジャカルタを脱出(注4)。
2005年、テキサス州ラレドでは、水質と料金に問題があるとしてスエズ社との契約を撤回。
2006年、アルゼンチン政府はスエズ社がブエノスアイレスの下水処理を怠り、また不当な水道料金を徴収しているとして契約を破棄。
2007年、ボリビア・エルアルト地区ではスエズ社の水事業に先住民を中心に激しい抗議運動が起こり、時の政権が転覆。先住民族初の大統領エボ・モラレスは2007年スエズ社を追放しました
これらのケースでは(注1)、すべて現地企業を子会社化することで水事業に参入しています。
2021年7月5日、宮城県議会で民営化容認
宮城県議会は7月5日、上下水道と工業用水の運営権を20年間にわたって民間企業に売却する「みやぎ型管理運営方式」の運営権設定議案を可決。2022年4月から民営化することになりました。
ヴェオリア社を招きいれた村井嘉浩宮城県知事は、337億円のコスト削減が見込まれるなどと、この議案をごり押ししてきましたが、元自衛隊ヘリコプター操縦士が20年後を正しく俯瞰しているとはとても思えません。いったい何を根拠に、村井知事が水道民営化に執着してきたのか不思議です。
それはさておき、「みやぎ型管理運営方式」とはいかなるものか、前々稿と重複しますが、改めて記載します。
みやぎ型管理運営方式:県と民間が役割を分担して水道事業にあたる独自のコンセッション方式です。
【県が受け持つ業務】管路の維持管理と更新。建築等の改築。事業全体を総合的に管理・モニタリング。
【民が受け持つ業務】浄水場・処理場の運転と管理。水量水圧等の監視(24時間・365日)。水質のチェック。薬品等の調整。動力費の負担。設備等の更新。
この「みやぎ型管理運営方式」には、水道の小売り部分にあたる各自治体の水道事業は含まれていません。そのことから、この議案を“私ごと”として考えない県民が多かったようです。
しかし、この民営化に危機感を抱いている市民が沢山います。
はたして水質などのモニタリングをきちんとできるのか?
自然災害時の危機管理を民間企業が対応できるのか?
コスト削減が水道技術者の継承を困難にさせないか?
急がれる管路の改修や更新が先送りされていくのではないか?
市民グループ「命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ」(注2)を始め、多くの市民がこの法案のストップを訴えています。
ヴェオリア社のお膝元のパリ市では、2010年から水道が市民管理による再公営化事業に転換されました。それまでヴェオリア社とスエズ社パリ市の水道事業を2分して請け負ってきましたが、料金の高騰など市民から抗議の声が高まり、パリ市は2社との契約解除に踏み切ったのです。
ヴェオリア社は、花のパリで水道企業を展開していますという大看板を掲げる
ことができなくなりました。
トランスナショナル研究所の岸本聡子氏によれば(注3)、2019年時点で世界311
の地域で水道事業が再公営化されたそうです。
“水は人権” 私たちの生存を支える水道を利潤追求のための商品にしてはい
けません。水は私たちの大切な社会的共通資本です。
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注1)これらのケースでは:ヴェオリアとスエズが起こしたトラブルに関しては、モート・バーロウ著、佐久間智子訳「ウオーター・ビジネス」作品社2008年刊より引用しています。
注2)「命の水を守る市民ネットワークみやぎ」:活動は下記のFace
Bookにアクセスしてください。https://www.facebook.com/mizumiyagi/?ref=page_internal
注3)岸本聡子氏によれば:岸本聡子著「水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから学ぶこと」集英社新書2020年刊、p38。
2022・2・3記 文責 山本喜浩