水を守る第7話 アベノミクスを検証 リニア中央新幹線そして米・石油パイプラインとの闘い
- 2022/09/18
- 21:30
アベノミクスはなにを私たちに残したのでしょう
米国で爆発したMMT論争は日本の政権中枢でくすぶりました。
浜田宏一官房参与が安倍晋三首相にMMTについて説明すると、首相は
「フグ料理のようなものだね、名人がさばけば美味だが、料理人の手元がちょっと狂えば、危ない」。
こんな記事が紙面を飾ったのは2020年2月のこと、それから2年後の今年6月4日、安倍元総理は京都市内の講演(注1)で国の負債について、次のように語っています。
(凶弾に倒れるほぼ一ヵ月前、京都市内で講演する安倍元総理。写真はFNNプライムオンライン)
「(1千兆円以上の国債発行残高が不安だとの声に)私は大丈夫だと言いたい。確かに政府には借金があるが、半分は日本銀行に(国債を)買ってもらっている。家計的に考えると借金はまずいが、政府は日本銀行とともにお札を刷ることができる。(家計に)例えるのは間違っている。
ただし、ドンドンとお札を刷っていいわけではない。2%という物価安定目標を超えたら金融を引き締めていく、まだまだ日本国債は十分な信用があるから心配しないでもらいたい。まだまだ財政政策をやっていく余裕はある」
元総理のこの発言は<自国通貨を持つ国は政府債務で破綻することはない>というMMTに多少の影響を受けているのでしょうか。
さて、金融の量的緩和で円安を呼び企業の業績は上向き雇用が拡大、新卒の内定率が急上昇、若者にアベノミクスは救世主に映りました。しかし2014年の消費税引き上げが大ブレーキに・・とここまで、前回お伝えしました。
確かに安倍政権下で失業率は4.3%から2.4%に減少しています。
しかし、増加した雇用者は499万人ですが、うち正規は149万人、非正規が349万人。なんと7割が非正規労働者です。その非正規で働く人の多くが女性と高齢者という、私たちは所得格差と男女格差が入り組んだ特異な社会で暮らしています。(最下段に男女賃金格差グラフあり)
そして実質賃金は2012年から2019年までに4.6%も下落(大和総研の調査)しました。
そして現在、量的緩和による円安と資源エネルギーの高騰、そこにロシアによるウクライナ侵略が重なった急激な物価高が、日々の暮らしを脅かしています。
岸田政権は早急に消費税を廃止、ないしは軽減し、これまでの自民党政権が目もくれなかった食料とエネルギーの自給率上昇策を打ち出して、人々の暮らしを守る必要があります。
安倍政権はなにを私たちに残したのでしょう
第一次安倍政権下の2006年教育基本法が改悪され、家父長的な国家観が盛り込まれました。第二次安倍政権が発足すると戦前の治安維持法ではないかと批判された秘密保護法を強行採決。
2017年には市民の人権を脅かす共謀罪。2018年長時間労働を促進しかねない働き方改革、また水道を海外企業に売り渡せる水道民営化や沿岸漁民の権利を奪う漁業法改悪。
安倍政権が強行してきたことは、「戦える国造り」であり、コロナ禍まで悪用しての「国家総動員法」の練習でした。
それに加えて、閣議決定で集団自衛権の行使を認めた安保法案の改悪。更に数々の疑惑に応えない国会軽視は記憶に新しい通りです。現在、旧統一教会との疑惑も未解明のままです。このように、この国の民主主義をないがしろにした#安倍元総理の国葬に反対します。法的根拠のない#国葬を中止しましょう。
失業者ゼロの完全雇用がインフレを防ぐ
話しがあっちこっちに飛んで申し訳ありません。さて、
<自国通貨を持つ国は財政赤字を重ねても破綻することはない>
<租税は国の財源ではない。租税の目的は通貨の流通を促し、富の偏在を是正し、インフレを制御するためである>
前々回に王様の昔噺でお伝えしたこれらのことは、実際の現代貨幣とはいかなるものかというMMTの“説明”でした。ここ20数年の日本の経済はその説明を実証しているという訳です。
MMTが“提唱”するのは失業者ゼロの完全雇用社会です。
国のマクロ経済政策の骨格に完全雇用を据えましょうと言うのです。
その具体策として、政府支出で働きたいと望むすべての人を雇用する「雇用保障プログラム(JGP)」(注2)を提唱しています。原型は1930年代のニューディール政策にあります。当時、米政府は雇用促進局を立ち上げ850万人を雇い入れました。
これをMMTは「雇用保障プログラム(JGP)」として常時用意しようというのです。用意する仕事は地域社会が必要とする文化・教育から土木までの公共事業としています。政府による完璧な失業対策です。
このプログラムで最低賃金を設定することにより、民間の労働条件を改善させる。更には社会の安定がインフレを抑制すると主張しています。
ここまでお読みになって、「だったら」と思った方が多いのではないでしょうか。
そうです。だったら、ベーシックインカム(BI)のほうが良いのではないか? 生活者に必要な最低限の所得を国民全員に補償するBIのほうが、JGPよりも確実に失業者はゼロになるのではないか。
BIかJGPか、次回に続きます。
水を守る闘い アメリカと日本
2016年12月オバマ大統領が止めたサウスダコタの石油パイプライン工事を、翌年トランプ大統領は就任わずか5日後に再認可。怒りの声が全米に広がって4年後です。
ワシントンD.C連邦裁判所は2020年7月6日、命の水が奪われるとパイプラインに反対してきたアメリカ先住民スタンディングロック・スー族の訴えを支持し、パイプラインの運営を一時停止する判決を下しました。
判決は、同パイプラインの操業を認めたアメリカ陸軍工兵隊の環境影響評価が、不十分だったことを指摘。操業を停止して、30日以内にパイプラインから石油を取り除き、パイプラインのリスク調査と徹底した環境影響評価をするよう求めています。
ハフポスト日本語版(2020・7・8日付)の記事によると、政治に翻弄されながらも闘い続けた4年間を振り返ったス―族部族長は、
「今日は、スタンディングロック・スー族と一緒に闘ってくれた多くの人たちにとって、歴史的な日です。パイプラインはそもそも、ここに建設されるべきではなかった」と判決に歓喜。
一方で敗訴したエナジー・トランスファー・パートナーズ社は、判決を「十分に検討されていないお粗末なものだ」と批判。同社は6日午後、操業停止命令の執行停止を求めましたが、連邦裁判所は7日、申し立てを却下したそうです。
アメリカの司法は日本に比べると健全に機能しているようです。
この判決からほぼ3か月後の10月30日、大井川の水を守るために静岡県民を中心とした107人の原告がJR東海を被告として、「リニア新幹線工事差止め」を求める民事訴訟を起しています。日本の“水を守る闘い”はいかなる展開をむかえるのでしょう。
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注1) 安倍元総理は京都市内の講演で:2022年6月4日付朝日デジタル。
注2) 雇用保障プログラム(JGP):job guarantee program。政府が最後の雇い手となり失業者をゼロにするプログラム。
注3)男女賃金格差 グラフはマイナビキャリアリサーチ
2022・9・18記 文責 山本喜浩