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水源井戸のPFAS汚染に揺れる多摩の地下水利用

  

東京の水連絡会 苗村洋子

 

血液の高濃度PFASショック

 今年の春以降、多摩地域の地下水PFAS(有機フッ素化合物)汚染が連日のように新聞報道されています。市民団体が実施した血液中PFAS濃度の調査で高濃度検出者が続出し、住民に衝撃と不安が広がりました。

PFASは、フッ素樹脂加工のフライパンや泡消火剤、撥水剤などに広く使用されていますが、自然界で分解されにくく、「フォーエバー・ケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれています。体内に蓄積されガンなどの発症リスクが指摘され、人体への影響が懸念されています。何千種類もあると言われるPFASのうち、日本で規制対象となっているのはPFOSPFOAだけで、PFHxSが今年規制されると言われています。

飲み水のPFAS汚染問題は、日本では沖縄の米軍基地で泡消火剤の使用や漏洩によって水道水源が汚染されたことが発端です。201812月に横田基地でも漏洩との報道があり、19年にはテレビでも取り上げられ、さらに201月に水道水のPFAS汚染新聞報道などで、一般に知られるようになっていきます。

東京都は、水道水源の地下水からPFOSPFOAが高濃度で検出されたため、196月の国分寺、府中を皮切りに水道水源井戸からの取水を停止しました。204月には、国が水道水の暫定目標値を適用開始、停止井戸は増えていき、現在34本におよびます。これまで地下水の水道水を飲み続けてきた市民は「冷たくておいしい自慢の水だったのに」と大きなショックを受け、PFASによる健康被害を心配しています。

 

多摩の地下水と八ッ場ダム

 多摩地域の地下水は、八ッ場ダムと深い関係があります。東京都は、水が足りないと多くの水源開発に参画し、水道水源を地下水からダムの水に転換する方針を示していました。八ッ場ダムができれば多摩の地下水は不要になるということです。戦前から東京の地盤沈下は激しく、都では高度成長期に揚水規制などの対策が効果をあげ、地下水の汲み上げは年々減少、1970年代はじめまで続いた地盤沈下が鎮静化していきました。そのため、多摩地域の水道用地下水を河川水に全面転換する必要はなくなったのですが、転換計画は変わりませんでした。

これに対して1986年、多摩地域の市民は「地下水を守る会」を発足。汚染が発覚していた府中市でも「府中井戸ばた会議」が設立されました。東京都水道局や環境保全局との交渉とともに、地下水の重要性と水源転換問題を市民に伝えていく活動を展開しました。そして、地下水シンポジウム開催を契機として、都水道局の地下水の位置づけが変わりました。水源開発が遅れているので、当面は地下水を利用していくが、代替水源開発後も緊急時には地下水を使わなければならないので、水質や機能の維持のため、平素から井戸を運転し、地下水を活用していくことになったのです。水源転換自体が変わったわけではありませんが、地下水を使い続けていくことが明言され、画期的な成果でした。

 

多摩地域の水道一元化

実は、東京の水道事業は、全国的に見ると特殊で、広域的な事業となっています。本来、水道事業は市町村が行う事業ですが、東京の場合は、東京都水道局が、23区と多摩の市や町の水道を都営水道として行っています。現在、水道事業を自治体単独で行っているのは、昭島市、羽村市、武蔵野市の3市と檜原村だけ。かつては23区だけが東京都で、多摩地域はそれぞれの市町村が地下水を主な水源として水道事業を行っていました。ところが、多摩地域の人口が増加し、水源確保と格差是正を解決する策として、1973年の4市から都営一元化が始まり、次々に統合されていきました。ただ、統合後も直接住民に給水する事務に関しては、各市が都から委託を受けて実施していたのです。それから30年、各市の事務委託も解消、2011年度末で完全一元化が終了し、単独事業の自治体以外には、水道の担当部署がなくなってしまいました。

 

化学物質汚染との闘い

 多摩地域の水道で、化学物質汚染によって地下水が脅かされる事態はこれが初めてではありません。1980年代に発覚したトリクロロエチレン汚染問題です。

82年、府中の水道水源井戸からトリクロロエチレンが検出されました。すでに都営水道に統合されていた府中市の浄水場では、都水道局が井戸の揚水を停止しました。83年には、三鷹市の水源井戸からも検出されましたが、未統合であった三鷹市は、水道部が対策をとりました。汚染拡大防止のために汲み上げを続け、緊急対応で下水道に放流。汚染水源井戸の汚染を遮断する改修工事を行い、その後ばっ気装置()を設置し、汚染地下水を浄化して水道水源として再び使用するようになったのです。

府中市では91年、水道局が汚染濃度の低い井戸に浄化装置を設置し揚水を再開しました。しかし、濃度の高い井戸は停止したままだったため、市民は汚染の拡大を懸念します。「府中井戸ばた会議」は、92年農工大研究室の協力を得て付近の井戸の水質調査を実施しました。その結果、東側へ汚染が広がっている怖れが高いと判断、水源井戸の水質分析を求め、汚染の拡大が判明しました。東京都と府中市合同の「府中市地下水汚染連絡会議」を設置、94年には汚染井戸にばっ気装置をつけて揚水を再開。汚染除去し地下へ還元しています。

 その後、立川の水道水源井戸からの1,4-ジオキサンが検出されたことをきっかけにして、

2003年「多摩の地下水を守る会」が発足しました。1,4-ジオキサンは除去が難しく、取水停止以外の手立てを取られずにいます。多摩の地下水を守る会は、八ッ場ダムストップ、多摩川の取水再開の運動とも連携し、活動を進めました。各市議会に働きかけ、都や国への意見書の提出にも取り組みました。「多摩地域の地下水を水道水源として安定的に飲み続けることを求める意見書」は、049市で可決、「八ッ場ダム見直しを求める意見書」は、04年に3つ、08年1つの自治体議会から提出しています。

 さらに、東京都に地下水保全条例を求め、都議会に働きかけました。条例制定のねらいは、「地下水は都民共有の貴重な資源であり「公水」である。だから、みんなで守りみんなで使おう」というもの。条例案には、地下水が汚染された緊急時には、知事が必要な措置を講じ、情報を公開、そして汚染者に費用を請求する――という内容を盛り込みました。残念ながら都議会への提案にまで至らず、条例案は眠っています。

 

地下水はみんなの財産

水源井戸の取水量は年々減少し、PFAS汚染でさらに減っています。地下水は多摩地域の大切な財産です。下流への汚染拡大を防止し将来水源井戸の復活をめざすため、汚染源を究明し、汚染除去に取り組む必要があります。

そして、次々と作られる代替物質を防ぐために、3物質だけでなく、EUやアメリカで検討されているようにPFAS全体の製造・使用を規制することが求められます。さらに、水質汚濁防止法や土壌汚染対策法ではこのような汚染問題を解決できないため、対象物質の拡大だけでなく枠組み自体を改善する必要があります。わたしたちの身の回りにあふれる化学物質について、利便性と環境や人体への影響をあらためて考え直すことが重要です。

 
*ばっ気装置:水に空気を送り込み、トリクロロエチレンを発散させる。

この記事は 八ッ場あしたの会会報に掲載されたものです。

2023・11・11


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Tokyo no Mizu

Author:Tokyo no Mizu
プロフィル

東京都は水道水のほぼ60%を利根川水系・荒川水系に依存しています。
つまり、自給率はほぼ40%。こんな自給率で異常気象や大地震が引き起こす
災害に備えることが出来るのでしょか。
私たちは大変に危うい水行政の元で暮らしています。
これまで東京の河川・地下水の保全と有効利用をめざしてきた市民グループ、
首都圏のダム問題に取り組んできた市民グループらが結束して、
「東京の水連絡会」を設立しました。
私たちは身近な水源を大切にし、都民のための水行政を東京都に求めると同時に、
私たちの力でより良い改革を実践していきます。
東京の水環境を良くしようと考えている皆さま、私たちと共に歩み始めましょう。
2016年9月24日。        
                   
      

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