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水道民営化で世界の都市が舐めた辛酸  その2~アルゼンチンの首都ブエノスアイレス~

反マクリ大統領デモ
(現政権マクリ大統領に対する抗議デモ。街頭デモの自由度は日本よりはるかにアルゼンチンのほうが保証されている)

ブエノスアイレスの水道民営化の混迷

アルゼンチンでは 1990年代、かつてないほどの規模で新自由主義政策[*注1]が推し進められました。公共サービスの事業運営権なども国内企業や多国籍企業に譲渡されました。陸・海・空すべての輸送、電気通信、保険、年金、空港などを始め、金属加工産業から石油産業までが売却の対象とされました。さらに、電気、上下水道、ガスといった、国家が国民に提供してきた公共サービスについても民間とコンセッション契約が結ばれました。
[*注1]1989年、労働者の指示を得て当選したカルロス・メネム大統領は選挙公約とは180度逆の新自由主義政策を導入した。この新自由主義政策はアルゼンチンの中間層の没落を招き、貧困化が広がった。その社会構造は現在まで未解決のままアルゼンチンに暗い影を落としている。 

貧しい地域の人々に水へのアクセスを提供することと、産業排水の規制、および水道の衛生基準の遵守を使命とする国営水道会社OSBAがあったブエノスアイレス州も例外ではありませんでした。アルゼンチンの人口のほぼ3分の1が集中するブエノスアイレス州において、水道や電力事業などの公営サービスは、エンロン、ヒューストン・コーポレーション、およびAESなどの企業の標的となりました。
1999年、それまで州政府の支配下にあった他の公営企業も売却されました。エンロン[*注2]は、子会社であるアズリックス「*注3」と、その現地法人であるアズリックス・ブエノスアイレスを通じて、同社に好都合な条件でサービス供給契約を獲得しました。アズリックスは、契約保証金として約5億ドルを支払いました。これは他社が掲示した額の3倍以上だったとのことです。
[*注2]エンロンは米テキサス州ヒューストンに本社を置いたエネルギー取引とITビジネスの企業。2001年に巨額の不正経理と不正取引による粉飾決算が明るみ出て破綻。レオナルド・デカプリオ主演でエンロン事件映画化が企画されたが、クランクインできなかったことなど記憶に新しい。
[*注3]アズリックス(米企業)がブエノスアイレスの水事業を受注する前に、フランスの水ビジネス・メジャーのスエズ社が「アグアス・アルヘンティーナ」という合弁会社を設立してブエノスアイレスの水事業を牛耳り、巨額の利益を吸い上げて撤退している。


コンセッション契約は70市の上下水道網、47の下水処理場、470の深井戸ポンプ場、1万キロ近い水道網と7200キロにわたる下水道網を網羅していましたが、2000人いた職員のうち、このエンロンの事業に転属されたのは約半数に過ぎませんでした。
アズリックスによる事業運営が始まって1年も経たないうちに、水の生産と供給および下水の回収と処理に深刻な問題が生じました。水道網は汚染され、浄水場は甚大な被害を受けました。汚水の回収・処理を行なう施設は機能しなくなりました。設備と技術に対する投資は行なわれず、重要なサービスが外部委託に切り替えられ、労働環境とサービスの質の両方に悪影響をもたらすこととなりました。
このような状況に不満をつのらせた利用者と消費者団体は、この間題が生じた地域の市長たちに対応を迫りました。その結果、州政府はアズリックスに対し、投資政策の変更およびサービスの質と継続性を回復する適切な計画の策定を求め、改善がないとして重い罰金を課しました。
そして、契約開始から2年も経たないうちに、親会社のエンロンが倒産し、アズリックスは撤退することとなりました。このようにして、民営化は失敗、期せずして公営事業に戻ることになったわけですが、そのための混迷は予想に難くありません。
ところで、こんなアズリックス社ですが、2002年にブエノスアイレス州に対して契約違反の補償を求め、国際投資紛争解決センターに提訴[注]を行ない、アズリックスの事業が適切であったかどうかの調査が実施されました。
[注]2009年、国際投資紛争解決センターはアズリックス社の訴えを認め、なんと約1億6500億ドル支払うようブエノスアイレス州に命じました。ただし、投資財産への影響が収容に相当するに至らないとして、収容違反は認定されていません。

再公営化に取り組んだ市民

2002年2月、州政府にはサービスを引き継ぐための技術者も管理者もいませんでした。しかし、これまでコンセッション契約の下に、サービスを受けてきた300万人近い人々に継続的に水質と水量を保証する必要がありました。ブエノスアイレス州上下水道労働組合は、そのためのプロジェクトを提案し、これに政府をはじめ、さまざまな人々が参加することによって、ブエノスアイレス水道による上下水道事業の再構築が可能になったのです。

水道民営化が実施された1999年当時、ブエノスアイレス州の上水道管及率は74%、下水道の普及率は都市人口の47%でした。アズリックスが撤退し、ブエノスアイレス水道が設立された2002年には、人口増加と投資の不足によって上水道の普及率は68%、下水道の普及率は43%以下になっていました。その後、回復して、現在は人口71%に上水道が普及し、45%が自宅に下水設備を備えています。
錆びた蛇口

  アズリックスが何もしなかったために、40%もの上水が漏水で失われていた水道網の修復にも、世界銀行からの融資を受けて取り組みました。下水処理場については、アズリックスが半数の運営を放棄してきたため、河川の汚染が悪化していましたが、現在、操業が停止されていた処理場の30%がフル稼働しています。

今後の課題
民営化の失敗を教訓に、利用者自身にブエノスアイレス水道の株主になってもらうことなど、市民、企業の人々の事業参加によって、ブエノスアイレス水道の完全な自治を達成することです。公営か民営かではなく、意思決定において高いレベルの民主主義を実現することであるといえましょう。
                         文まとめ 都甲公子

現在日本では
「水道法の1部を改正する法律案」(平成30年3月9日提出)が、2018年6月29日より衆議院厚生労働委員会において審議が始まりました。この法案は水道事業の広域化と民営化を推し進めようする法改正です。7月5日、大急ぎで衆議院を可決。参議院に送られました。メディアもこの重要法案をあまり取り上げません。民営化は世界の都市でことごとく失敗してます。世界的に周回遅れの民営化が本当に必要か? はなはだ疑問です。
                        2018・7・5 記

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Tokyo no Mizu

Author:Tokyo no Mizu
プロフィル

東京都は水道水のほぼ60%を利根川水系・荒川水系に依存しています。
つまり、自給率はほぼ40%。こんな自給率で異常気象や大地震が引き起こす
災害に備えることが出来るのでしょか。
私たちは大変に危うい水行政の元で暮らしています。
これまで東京の河川・地下水の保全と有効利用をめざしてきた市民グループ、
首都圏のダム問題に取り組んできた市民グループらが結束して、
「東京の水連絡会」を設立しました。
私たちは身近な水源を大切にし、都民のための水行政を東京都に求めると同時に、
私たちの力でより良い改革を実践していきます。
東京の水環境を良くしようと考えている皆さま、私たちと共に歩み始めましょう。
2016年9月24日。        
                   
      

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