上下水道から東京の水循環を考える見学会
- 2018/12/17
- 18:32

(写真は「多摩川上流水再生センター」の下水汚泥焼却施設外観)
蛇口の向こうと排水口の先を訪ねるバスツアー
苗村洋子
東京の水事情を知り水循環を考える見学会の3回目です。昨年の雨の羽村堰とは打って変わって、今年は、指ではじくと跳ね返ってきそうなほど青い空、とんでもなくいいお天気に恵まれました。2018年10月22日です。
今回訪ねたのは、多摩川上流水再生センター、昭島の東部配水場、そして再生水を流している玉川上水と野火止用水。立川駅前からマイクロバスで出発です。

わたしたちが使った水は、下水管を通って水再生センターできれいにしています。昭島市にある多摩川上流水再生センターは、周辺の6市2町(分流区域)から流される汚水を1日15~16万㎥処理、多摩川に放流していますが、そのうち2万5000㎥を清流復活事業としてオゾンなどで高度処理し玉川上水・野火止用水に流します。
まずは多摩川上流水再生センターを訪ねました
下水処理といっても、どこも臭いは感じません。汚れを沈殿させたり微生物の力を借りるなどして水と汚れを分離、汚れを集めた汚泥は脱水・焼却します。こうして水はきれいになりますが、水温は流入時・放流時変わらず、最近は24℃くらいとのこと、だんだん高くなっています。多摩川は下水処理水が多いので、川の環境にも影響します。
施設を一望できる展望室は建物のてっぺんにあり、最近人気のマンホール蓋の写真に囲まれた階段を上って到着。ガラス越しに強い日差しを受けながら、処理施設について説明してもらいました。

(展望室から見ると活性汚泥処理槽(下の写真)などのにおいを発する施設はすべて地下施設で、整然とした景色だ)

見渡すと、放流先の多摩川や向かいにある八王子の水再生センター、河川敷と施設内(処理槽の屋上)にある昭島市の公園、建設中の汚泥焼却所、太陽光パネルなどが見え、水だけでなくエネルギーや土地利用についても興味は尽きません。
例えば、汚泥焼却に奥多摩の木材チップを都市ガスの代わりに使っていますが、新しい焼却炉ではチップを使いません。太陽光発電は800kW、3%ほどの電気をまかなっているそうです。
このセンターにはNaS電池(注)も設置されています。高価なNaS電池に夜間電力を溜めておくということです。また、屋上の上部公園は昭島市が運営しており、外とは歩道橋でつながっています。
注)NaS電池(ナトリウム・硫黄電池)は、鉛蓄電池の約3分の1の小型で、長期間安定した電力供給が可能。電力負荷平準によるピークカット、再生可能エネルギーの安定化に役立ち、環境負荷低減に貢献している。
展望室を降りて、清流復活事業の高度処理を見学。小平市に住んでいるわたしたちには馴染み深い玉川上水の水がここから来ているのです。
1986年から始まりましたが、水の臭いや色が問題になり、オゾン処理するようになりました。年間費用2億円、オゾン装置で電気代が相当かかるとのこと。複雑な気持ちになります。

(高度処理に必要なオゾンを造るオゾン発生器)
東京都の水自慢 昭島市の地下水を使った美味しい水道
ボリュームたっぷりのお昼ご飯を食べた後、今度は飲み水の見学です。
昭島市は地下水100%の水道水を供給しています。多摩地域の水道は、東京都水道局がほとんどの地域を運営していますが、昭島市、羽村市、武蔵野市と檜原村が自前で事業を実施しています。
昭島は地下水が豊かなところで、湧水も豊富です。昭島の水源は深さ150~250m、20本の井戸から汲み上げる深層地下水。清冽な水は、法令で決められた塩素を加えるだけで市内に配水されています。大規模な浄水施設は要りません。


(写真上:昭島東部配水場で職員が、地下水を水道水にするプロセスを説明してくださいました。下:イラスト図は、汲み上げた井戸水に、ほんの少し塩素を添加して送り出すだけの簡単な施設)
供給する水の量は、人口が増えているのに1998年頃をピークに減っています。これは全国的な傾向で、節水が進んでいるのです。水源井からの冷たくておいしい原水をいただきながら、10年以上前に昭島で開催した地下水シンポジウムと水めぐりを思い出していました。おそば屋さんや井戸を持っている家の水自慢。東京でこんなに豊かな水に出会えることに驚きでした。
武蔵野の玉川上水と野火止用水をぶらり
水自慢の昭島に別れを告げ、バスは玉川上水駅でおしまい。そこからは、羽村の堰で引き込んだ多摩川の水が流れている玉川上水沿いに小平監視所へ歩きます。
小平監視所には、台風による残骸らしき枝木がどっさりたまっていました。落ち葉などのごみを取り除き、多摩川からの原水は、ここから管で東村山浄水場へ運ばれます。一部だけ小平市などを流れる用水路に分水されています。玉川上水の水はここで分断されているのです。
小平監視所のほど近くに玉川上水の放流口があります。多摩川上流水再生センターで高度処理された再生水がここから下流に流れていきます。

(玉川上水の放流口近くにある見学場から見た下流。小平市などを経て四谷へ流れ下る。)
放流口を見た後、野火止用水の上に整備された緑道を歩き、東大和市駅を越えて道路わきに野火止用水が顔を出すところまで散策。
帰りはちょうど夕日が沈む間際で、見学会の締めくくりとなりました。


(写真上:野火止用水。江戸前期に開削された用水路で、東京都の清流復活事業で甦った可憐な小川。写真下:解散地にあった案内板の地図。下が北向きの地図です。)
今回は水道と下水道、わたしたちの生活に密着した水について再認識する機会となりました。多摩川の水の少なさや、玉川上水の再生水を見るにつけ、巨大都市東京の水循環はいろいろとジレンマを抱えていてなかなか一筋縄では行かないものです。今後もあれこれ機会をとらえて、東京の水問題について多くの人と考えていきたいと思います。

(写真は昭島・東部配水場の入口前、ハイチ―ズ。この日の参加者は17名でした。)
1018年11月14日記 苗村洋子