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水道民営化の源流 その3

新自由経済の潮流に乗り、世界の水支配を企てるグローバル水企業
~南米ボリビアで起きたこと~                             山本喜浩

水は公共財です。水へのアクセスは領土に暮らす人々と生物すべての権利であり、社会正義、連帯、公平、多様性、持続可能性を大切な価値として運用されなければなりません。
上の宣言は、南米ボリビアが「水省」を設立した時に謳った理念です。「水省」という省を持っている国は、このボリビア以外におそらくないでしょう。水省(注1)が誕生した背景には、ボリビアの都市・コチャバンバの人々による水をめぐる壮絶なドラマがあります。

グローバル水企業への異議申し立て コチャバンバ市民の闘い
2000年4月5日 「水と命を守る連合」の代表者のオスカル・オリビエラは、過激化する民衆の動きを節度あるものにしようと努力しましたが、人々の怒りを抑えることはできませんでした。
前年の12月、水道料金の値上阻止から端を発した抗議運動は、コチャバンバ市の水道事業を独占管理するグローバル水企業「トゥナリ社」の撤退を求めるゼネストにまで拡大していたのです。
コチャバンバの官庁街には労働者、農民、学生など広範な階層の市民が集まっていましたが、過激化した一部はトゥナリ社の事務所へ向かって行進を始め、トゥナリ社の看板を引きずり下ろすと、事務所に「人民の水」という看板を掲げました。
ちなみにトゥナリ社とは、アメリカの大手建設企業「ベクテル社」の子会社です。
コチャバンバンのデモ看板を引き下ろす

4月7日 「水と命を守る連合」の支持者たちは、トゥナリ社が撤退するまで道路を封鎖、市の中央広場を占拠することを決意。警察は指導者達の逮捕をはじめます。
4月8日 ボリビア政府は「暴動は麻薬ギャングの扇動」と表明し、ついに戒厳令を発令。ボリビア軍が出動してテレビ・ラジオ放送を占拠。マスメディアから市民への情報を遮断。抗議運動の全国化を恐れたのです。
コチャバンバ市の民衆は市庁舎を襲撃するなど抗議運動がゲリラ化。この日、17歳の青年が軍によって射殺され、その他に5名の市民が命をおとしました。
4月9日 抗議運動が収束しないのをみた政府は、これまで穏健派市民だけと交渉を進め、かたくなに排除してきた「水と命を守る連合」との話し合いに応じることになり、ボリビア政府の代表とオスカル・オリビエラの会談が実現。
オスカル・オリビエラは、トゥナリ社との契約の白紙撤回を要求します。
オスカル
4月10日 政府と「水と命を守る連合」との間で協定書が交わされました。協定書は水道事業の運営をコチャバンバ市、水と命を守る連合、SEMAPA(市営上下水道)の労働組合からそれぞれ2名ずつ代表が参加する暫定理事会を設置すること取り決め、トゥナリ社との契約解除することを政府は約束しました。
4月20日 ボリビアの大統領は戒厳令を解除して、国民に対して謝罪。5ヶ月に及んだコチャバンバ市の水闘争は「水と命を守る連合」を支持した民衆の勝利で、ひとまず幕を降ろしました。降ろしましたが、このコチャバンバの運動は全国に反政府運動として広がり始めていました。
さて、ドラマの開幕はその1年前に遡ります。

その1年前 市の水道が民営化され 水と命を守る連合が誕生
 1999年10月12日 コチャバンバ南部の市民からの呼びかけで、SEMAPA(コチャバンバ市営上下水道公社)の民営化反対集会が開かれました。
ちょっと日本では信じがたいことですが、井戸や雨水を溜めるタンクにいたるまでトゥナリ社の管理下に置かれ、多くの人が水へのアクセスを断たれました。更に、いきなり水道料金35%の値上げ、一向に改善されない給水設備など、各地に民営化への怒りが渦巻いていたのです。
集会に参加した労働組合、学生、市民、農業団体により「水と命を守る連合」が結成され、オスカル・オリビエラ(注2)が代表者に選ばれます。オリビエラは靴工場の労働者であり、コチャバンバ県工場労働組合の代表でもありました。
ボリビアの地図 ボリビア県地図       
(ボリビアは人口1000万。55%が先住民でその多くが貧困層です)

この「水と命を守る連合」誕生の2年前、ボリビア政府はラパス県の都市エルアルトにある水道公社を、すでにフランスの水メジャー「スエズ社」に売却していました。
コチャバンバの市民は水道民営化がどのようなことを引き起こすか、おおよその予測がついていたのです。

ボリビアにおける水道民営化の背景
ラテンアメリカの多くの国がそうであったように、第2次大戦後は産業育成の
ための資源開発とそれに伴う外資の導入で、対外債務が膨らみ続けます。インフレと失業、国内矛盾を武力で抑え込む軍事独裁政権の誕生と繰り返されるクーデター。
ボリビアが民政復帰したのは1982年のことですが、この年、メキシコで顕在化した債務危機が中南米全域に広がりました。主にアメリカの民間銀行から融資された債務の返済不能が明らかになったのです。この時点で中南米全体の債務は約3180億ドルと云われていますが、ボリビアは40億ドルの対外債務に苦しめられていました。
ハイパーインフレが起き物価は8000倍、ボリビア紙幣はただの紙きれに変わります。デノミで乗り切りましたが、ボリビアは財政破綻と隣合わせの危うい道を歩み続けます。
1993年、ボリビア政府は新自由主議の経済政策に活路を求めました。
この一連の累積債務問題の経済調整(構造調整)に乗り出したのは、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、米州開発銀行です。これらの機関は資金融資の条件に公営企業の民営化を求めました。サッチャーとレーガンの新自由主義経済の伝導役を国際金融機関が務めることになったのです。
世界銀行はボリビアの上下水道公社への資金融資に関して、ふたつの条件をあげました。ひとつは民営化すること。もうひとつは、水道事業者は水道事業に掛かったすべての費用を水道料金から回収できること、いわゆるフルコスト・プランニングと呼ばれるシステムの導入です。
ボリビア政府はこの条件を飲んで、資金難にあえぐエルアルトとコチャバンバの水道民営化に踏み切ったのです。この時、コチャバンバの水道普及率は56%、貧困層(ボリビアの4割弱)は毎日の飲み水にさえ不自由するありさま
でした。

水のゼネストは、ボリビア初の先住民出身大統領登場を準備した
1999年4月5日 オスカル・オリビエラが率いるコチャバンバのデモ隊の中に、40歳の下院議員がいました。男の名前はエボ・モラレス(注3)、社会主義運動党の党首として、ゼネストを指導していました。
エボ・モラレス大統領
ボリビアはもともと社会主義運動が盛んで労働組合が強い国です。あのチェ・ゲバラが南米の革命拠点にと選んで潜入したほどの国です。山中に立て籠ったゲバラを、密かに支援したのも鉱山労働組合でした。ゲバラがボリビア政府軍に銃殺されたのは1967年、エボ・モラレスが7歳の時でした・・話を戻します。
   エボ・モラレス率いる社会主義運動党は徐々に国会での勢力を伸ばし、このゼネストで、一層の市民からの支持を広げていき・・その4年後。
2003年3月3日 エボ・モラレスは京都で開かれていた第3回「世界水フォーラム」の会場に乱入します。
    これまで「世界水フォーラム」を推進してきたのは世界銀行とグローバル水企業でした。日本政府はこの時点で水道の民営化など毛頭考えていなかったのでしょう。世界の市民、先住民団体、NGOなどに幅広く参加を呼びかけました。その結果、思わぬことが京都、大阪で起こります。会場の内外でグローバル水企業と国際金融機関への抗議活動が繰り広げられていたのです(注4)。 
パネル討論会場のひとつで、エボ・モラレスの一行が壇上に駆け上り発言をを要求、受け入れられると、南米におけるグローバル水企業の横暴な水搾取の現状を暴露・・そして、その2年後。
2005年12月18日 エボ・モラレスはボリビア初の先住民出身大統領に選ばれます。大統領選でモラレスが訴えた主なことは、反米、反新自由主義、反グローバリズム、そして天然資源の国有化でした。
翌年の5月、モラレス政権は主要なガス田を国有化、外資との間に新たな契約を結びなおします。その後、鉄鋼、通信と電力も国有化、教育支援、障害年金制度の導入など貧困撲滅と民主化政策に取り組みました。
 モラレス政権が誕生後、ボリビアの経済は順調に推移。平均成長率4・4%、貧困層はかつての38%から15%まで減少しています。

 ところで、コチャバンバを追われた米ベクテル社の子会社「トゥナリ社」は損害賠償請求をボリビア政府に起こしていましたが、モラレス政権樹立を機に賠償請求を放棄。スエズ社もボリビアから撤退しました。
 そして、オスカル・オリビエラはSEMAPA(コチャバンバ上下水道公社)への住民参加による、より良い公社を求めて粘り強い闘いを続けています。            
 コチャバンバの水闘争は中南米にインパクト与え、各地で市民が水と人権を取り戻す運動に立ち上がる契機となりました。ウルグアイでは以下の一文が憲法に盛り込まれています。

水は生命に不可欠な自然資源である。
上下水道サービスへのアクセスは、基本的人権の構成要素である。

注1 水省: 2017年現在、省の合併で「環境・水資源省」に変わっている。水省に関しては「世界の水道民営化の実態」2007年刊、トランスナショナル研究所編、佐久間智子訳。その著書のなかのコラム欄・山本奈美著「水を人々の手に取り戻す・ラテンアメリカからの潮流」による。
注2 オスカル・オリビエラ: 1955年生まれの社会活動家。農業労働者と都市労働の連帯を実現。環境分野におけるノーベル賞といわれるゴールドマン賞を2001年に受賞している。日本では諫早干潟緊急救済代表だった山下弘文が1998年に受賞。
注3 エボ・モラレス: 1959年生まれ、南米における伝統的なコカ栽培農家(麻薬とは無関係)出身。2014年に大統領に3選される。2019年秋の大統領選に向けて立候補を宣言。独裁化に繋がると批判デモが起きている。また2007年来日して安倍総理と2010年には菅直人総理と会談。ボリビアは日本からの移民が多く戦前からの永い交流がある。
なお、ボリビアの政治経済に関して「ボリビアを知るための73章」2017年刊、真鍋周三著を参考にした。
菅とエボ
注4 水フォーラムで、国際金融機関への抗議活動が繰り広げ・・:「世界の水が支配される」2008年刊、国際調査ジャーナリスト協会編、佐久間智子訳。その著書の訳者解説のあとがきを参考。

次回は、水メジャー誕生の舞台裏と欧州で現在起きている水道民営化の実態です。
2019・8・14記

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Tokyo no Mizu

Author:Tokyo no Mizu
プロフィル

東京都は水道水のほぼ60%を利根川水系・荒川水系に依存しています。
つまり、自給率はほぼ40%。こんな自給率で異常気象や大地震が引き起こす
災害に備えることが出来るのでしょか。
私たちは大変に危うい水行政の元で暮らしています。
これまで東京の河川・地下水の保全と有効利用をめざしてきた市民グループ、
首都圏のダム問題に取り組んできた市民グループらが結束して、
「東京の水連絡会」を設立しました。
私たちは身近な水源を大切にし、都民のための水行政を東京都に求めると同時に、
私たちの力でより良い改革を実践していきます。
東京の水環境を良くしようと考えている皆さま、私たちと共に歩み始めましょう。
2016年9月24日。        
                   
      

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