fc2ブログ

記事一覧

水物語(下水編1)

TIR・下水編1 -113kb

東京オリ・パラ2020と下水道の水質   水物語(下水編1)        
                              清井瑞夫

下水道普及率
     2019年3月末における下水道普及率(下水道利用人口÷総人口)の全国平均は79.3%です。下水道普及率が最も高いのは東京都で99.6%。2位は神奈川県で96.8%。以下、大阪府(96.0%)、京都府(94.7 %)、兵庫県(93.2%)の順。一方、下水道普及率が低いのは徳島県(18.1%)、和歌山県(27.9%)、高知県(39.5%)、鹿児島県(42.3%)、香川県(45.3%)です。出典:公益財団法人日本下水道協会 https://www.jswa.jp/sewage/qa/rate/

お台場の水質
    下水道普及によって川や海が昔に比べてきれいになったというのは、事実です。しかし、早くから下水道の普及を進めた大都市は、下水道に起因する水質汚濁の問題を抱えています。その問題の一例が、お台場の大腸菌です。来年の東京オリンピック・パラリンピックでトライアスロンのスイミング会場になるお台場の水質と下水道の関係について考えていきます。

    東京オリンピック・パラリンピックを1年後に控えた2019年夏に水質問題でニュースになったのは、お台場でした。お台場の水域は、トライアスロンの1.5㎞スイムの競技会場です。また、マラソンスイミング(距離10kmの水泳マラソン、2008年北京オリンピックで、正式競技となった。)の競技会場でもあります。お台場の水域といっても江戸時代に築かれた砲台場跡や旧防波堤と台場公園に囲まれている入り江のような狭い水域です。だから、マラソンスイミングではお台場の水域の中を何度も回って泳ぐことになります。

    お台場の水質問題はどのように報道されたのでしょうか。インターネットで「お台場、水質、大腸菌」をキーワードに検索すると、朝日新聞社 2019/08/17付では『東京五輪・パラリンピックのテスト大会を兼ねたパラトライアスロンのワールドカップで、会場となっている東京・お台場海浜公園のスイムコースの水質が悪化し、17日の全ての種目でスイムが中止になった。前日に国際トライアスロン連合(ITU)が定める基準値を大幅に上回る大腸菌が検出されたためで、競技はランとバイクを組み合わせた「デュアスロン」に変更された。』とか日経新聞8/17付では、『11日に同会場であった水泳オープンウオーターのテスト大会では選手が悪臭を指摘するなど、水質を懸念する声が相次いだ。』などの報道が掲載されています。
因みにトライアスロンの水質基準は、表1-1、表1-2のとおりです。表の出典は、東京都HPの以下のURLです。なお、表の調査結果は2019年のものでなく2年前の調査結果です。そのときの報道発表資料を文末に青字で示しました。2年前の調査でも大腸菌の基準越えのデータが出ているということです。
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/10/06/09.html
表1-1/53kb
和波:表1-2/61kbkb  
合流式下水道
    お台場の水質悪化は、雨天時に下水道からあふれ出た汚水が原因です。なぜ下水道から汚水があふれるのでしょうか。合流式下水道だからです。区部の下水道は、約8割が合流式下水道区域です。合流式下水道は、家庭やビル、工場などからの排水と雨水を併せて一本の管で集める方式の下水道です。一本の下水管(管渠)で浸水対策と水洗化を行えるため、早くから下水道に着手した都市では採用されました。合流式下水道では,雨が降ると下水管に流れ込む水の量が増えます。下水管や処理場の能力を超える量の雨水は、汚水と混ざったまま未処理の状態で河川や運河、海に放流されます。晴天時の汚水量の3倍程度は雨天時でも下水管に流せるといわれていますが、それを超えると一気に越流するのです。例えば目黒川や神田川の護岸をみると丸型や四角の穴(吐口)があいていますが、ここから汚水と雨水が混ざったもの(越流水)が出てくるのです。汚水にはトイレ排水も含まれていますので、糞便由来の大腸菌が多く含まれています。その結果、川や海の大腸菌数が晴天時に比べて高くなるのです。

流れ出る下水
川にあふれ出た汚水(生下水と雨水が混ざったもの。初期の越流水はかなり汚い。)
写真の出典は、下記の東京都下水道局HP
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/business/kanko/kankou/2016tokyo/07c/index.html


     なお、現在の下水道普及では、多くの都市で分流式が採用されています。分流式下水道は、汚水と雨水を別々の管(汚水管と雨水管)で流します。区部でも下水道の敷設時期が比較的新しい足立区・葛飾区の埼玉県寄り地域は分流式です。世田谷区の多摩川に近い地域も分流式です。東京港周辺の埋め立て地(大井ふ頭、豊洲、有明、お台場など)は分流式です。


合流式下水道の改善
     国土交通省のHPでは、次のように書かれています。『合流式下水道は、一定量以上の降雨時に未処理下水の一部がそのまま放流されるため、公衆衛生・水質保全・景観に影響を及ぼします。』http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000136.html

『昭和 30年代までの下水道は、河川の下流部にある大都市を中心として、浸水防除と下水道の普及促進を重要テーマとしていたため、雨水と汚水を同時に収集できる合流式下水道による整備が積極的に図られていた。その後、昭和45年の下水道法の一部改正により下水道の目的に『公共用水域の水質の保全に資すること』が加えられ、以降、分流式下水道により重点的に整備されている。』(太字は筆者)
http://www.mlit.go.jp/crd/city/sewerage/info/cso/goryu01/5-3-1.pdf

     ということですから、下水道普及の当初の目的は浸水防除が優先で、公共用水域の水質保全はあとから加えられたということになります。大都市の下水道普及が一段落したあと、合流式下水道の改善が行政課題となってきました。東京都下水道局では、2004年に新・合流改善クイックプランを策定して、合流改善を重点的な対策とし、現在も事業を進めています。国では「下水道法施行令の一部を改正する政令」が、2003年(平成15年)9月19日に閣議決定され、9月25日に公布され、2004年(平成16年)4月1日より施行されていますが、政令改正の趣旨、ならびにその概要については次のとおりです。

『1.改正の趣旨  公共下水道又は流域下水道(以下「公共下水道等」)の事業計画の認可基準として、公共下水道等の構造が技術上の基準に適合することが求められていますが、この基準を定める政令は未制定でした。また、合流式下水道の改善対策の推進、高度処理の導入など、新たな政策課題についても政令上の位置づけを明確にすることにより、適切に対応していく必要があります。これらの点から、公共下水道等の構造の技術上の基準を新たに定めるなど所要の措置を講ずるものです。
(2)合流式下水道の改善   合流式下水道では、雨天時に下水の一部が未処理で河川や海域等に放流されることから、合流式下水道の改善対策を確実に進めていくため、以下の内容を規定します。(原則10年の猶予期間)*   *:平成15年度に下水道法施行令を改正し、中小都市(170都市)25年度(2013年度)、大都市(21都市)では平成35年度(2023年度)までに緊急改善対策の完了を義務付け
・雨天時に下水を公共用水域に放流する吐口からの放流水量を減少させるように 適切な高さの堰の設置その他の措置が講ぜられていること
・雨水の影響が大きい時の放流水の水質基準を規定すること (分流式下水道の雨水水質と同程度の水質に)』 http://www.mlit.go.jp/crd/city/sewerage/info/seirei/kaisei030925.html

     東京都下水道局の合流改善策は下記のとおりです。貯留施設の建設には長期間かかります。すべての貯留施設計画が完了するのは、まだまだ先になります。お台場の水質改善は対処療法的な方法しか今のところないです。10年先の根本的な水質改善を期待しましょうか。

『河川や海などの水質保全を図るため、貯留施設や高速ろ過施設などの整備を進めます。雨天時に合流式下水道から河川や海などへ放流される汚濁負荷量を削減するため、降雨初期の特に汚れた下水を貯留する施設を整備しています。貯留した下水は、雨が止んだ後に水再生センターに送水して処理します。水再生センターにおいて、既存の沈殿施設の改造により早期に導入でき、従来の沈殿処理より汚濁物を2倍程度多く除去することが可能な高速ろ過施設の整備を進めます。』

貯留施設
貯留施設(芝浦水再生センター) 写真出典は下記の東京都下水道局HPhttp://www.gesui.metro.tokyo.jp/business/kanko/kankou/2016tokyo/07c/index.html


報道発表資料 20171004

 
オリンピック・パラリンピック準備局東京都と公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けて、オリンピック開催時期の21日間、パラリンピック開催時期のうち5日間、水泳(マラソンスイミング)及びトライアスロンの競技会場であるお台場海浜公園の水質・水温調査を実施し、調査結果が出ましたので、お知らせします。

本年8月は、21日間連続で降雨が確認され、1977年に次いで、観測史上歴代2位の連続降水記録となっております。

調査結果によれば、晴天時と降雨の後の水質が顕著に異なっています。今回の調査期間における国際競技団体の定める水質・水温基準達成日数は、水泳(マラソンスイミング)の基準で10日、トライアスロンの基準では6日となっています。競技が円滑に行われるよう、今後、対応措置を講じて参ります。

東京都は、過去、お台場海浜公園内の水質対策に関する実証実験を行ってきたなかで、水中スクリーン設置による大腸菌の流入抑制実験では、小雨時、沖合から流入するふん便性大腸菌群数を10分の1に抑えるなど、抑止効果があることが明らかになっています。今後、組織委員会と共同で降雨時の大腸菌群の流入に効果が期待される水中スクリーンの拡充(二重化から三重化など)を含む対策の有効性等についても実証及び検討してまいります。

実施時期

オリンピック期間(724日~89日)を含む21日間

パラリンピック期間(825日~96日)のうち5日間 ※IFと協議の上、日数を設定

実施場所:お台場海浜公園内水域

実施主体:東京都(オリンピック・パラリンピック準備局、港湾局)、東京2020組織委員会


*カバー写真は夕陽の多摩川。府中是政から上流をのぞむ。
2019・9・21 清井 記



コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Tokyo no Mizu

Author:Tokyo no Mizu
プロフィル

東京都は水道水のほぼ60%を利根川水系・荒川水系に依存しています。
つまり、自給率はほぼ40%。こんな自給率で異常気象や大地震が引き起こす
災害に備えることが出来るのでしょか。
私たちは大変に危うい水行政の元で暮らしています。
これまで東京の河川・地下水の保全と有効利用をめざしてきた市民グループ、
首都圏のダム問題に取り組んできた市民グループらが結束して、
「東京の水連絡会」を設立しました。
私たちは身近な水源を大切にし、都民のための水行政を東京都に求めると同時に、
私たちの力でより良い改革を実践していきます。
東京の水環境を良くしようと考えている皆さま、私たちと共に歩み始めましょう。
2016年9月24日。        
                   
      

過去のブログ記事一覧

カテゴリー 一覧