PFOA・PFOSって どんなもの? (Q&A NO1)
- 2020/12/26
- 21:56
PFOAとPFOSってなんですか? どう読めばよいのでしょう?
地下水を汚染するそうですが、有害物質なんですか?
A君の「はてな?」にお応えします。
PFOA(ピーフォアと発音)は、
ペルフルオロオクタン酸(Per Fluoro Octanoic Acid)、パーフルオロオクタン酸という言い方もあります。
頭文字のPは「全て」、Fは「フッ素」、Oは酸素ではなくOctanのOで炭素の数が「8」、Aは「酸」を意味しています。
PFOS(ピーフォスと発音)は、
ペルフルオロオクタンスルホン酸(Per Fluoro Octane Sulfonic acid)、パーフルオロオクタンスルホン酸という言い方もあります。
頭文字のPは「全て」、Fは「フッ素」、Octanは炭素の数が「8」、Sは「硫黄」を意味しています。
PFOAと PFOSは、炭素とフッ素で組成され、炭素の原子数は8つの有機フッ素化合物です。炭素とフッ素のつながり具合は、次のURLの研究所HPに図がでています。
https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/research-meeting/h23-01/2303-pp.pdf
https://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/eiken/news/documents/1802_news35_pfos.pdf
これ以外に炭素の原子数が6つのものや4つのものなどの有機フッ素化合物がありますが、炭素数が少なくなるほど生体毒性や蓄積性は減少するといわれています。ここではPFOA・PFOSを中心としたQ&Aを記載します。
Q1 自然界に存在する物質ですか?
A1 人工化学物質です。自然界には存在しません。
油分や水を寄せつけないテフロン※の難点(固まりやすく、加工しにくい)を解決するため、開発されたのがPFOA。これによってテフロンを液状にして、塗りつけや噴霧することが容易となったのです。
耐光性・耐熱性が高く生分解をほぼ受けません。自然界に長く残る大変にやっかいな物質です。
※:テフロンとは、ポリテトラフルオロエチレンを略した商標です。
(このイラストを含め以下3点の図案は、いずれもイラスト・ボックス・JPから借用しました)
Q2 日本国内で生産しているのですか?
A2 PFOAを初めて製造したのは、アメリカ合衆国ミネソタ州にある化学品等製造の大企業・3M (スリーエム)という会社です。
日本ではダイキン工業株式会社や旭硝子(AGCに社名変更)などが製造していましたが、現在は製造していません。
ダイキン工業株式会社は「PFOA及び関連物質の製造・使用、およびそれらを原料とした製品の製造を2015年12月末で完全に終了しました。当社は2006年、持続性のある化学物質管理の一環として、世界の主要フッ素化学メーカー7社(計8社)※とともに、2015年までにPFOA及び関連物質を全廃することをめざす「PFOA自主削減プログラム(PFOA2010/2015スチュワードシップ・プログラム)」に参画しました。」と報告しています。
※:フッ素化学メーカー8社とは、デュポン(現ケマーズ)、3M/ダイネオン、旭硝子、ソルベイ・ソレキシス(現ソルベイ・スペシャルティー・ポリマーズ)、アルケマ、クラリアント(現アークローマ)、チバ・スペシャルティー・ケミカル(現BASF)、ダイキン工業です。
Q3 どんなことに使われたのでしょう?
A3 PFOAはフライパンのテフロン加工、はっ水包装紙の製造に幅広く使用されてきました。PFOS もPFOAと同様に、表面張力を低下させ、耐熱性、耐薬品性の安定性を持つことから、はっ水剤や防汚剤原料、泡消火剤成分などとして幅広く使用されてきました。
FOSを含む泡消火剤は、航空機や艦船などの火災訓練や実際の火災で大量に使用されています。米軍基地でも大量に使用されているはずです。令和2年版の防衛白書では減少させる計画であると次のように記載されています。https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2020/html/nc044000.html
「本年2月にPFOS含有泡消火薬剤等の交換・処分の加速を目的とした計画を策定し、施設等においては来年度末までに、艦船等については令和5(2023)年度末までに、処理を完了することを目指しています。」
消防第164号 令和2年6月1日の消防庁消防・救急課長から各都道府県消防防災主管部長、東京消防庁・各指定都市消防長あての文書には次のように書かれています。
「PFOS等含有泡消火薬剤については、10 年前に製造が停止している一方で、交換推奨年数も8年から 10 年とされていることから、現在残るPFOS等含有泡消火薬剤は、経年劣化している恐れがあります。しかしながら、消防庁で実施した調査によると、PFOS等含有泡消火薬剤が、いまだに相当な量が保管されている状況です。」https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/20200601_pfoskoushinkeikaku.pdf
Q4 人体にどんな影響があるのですか?
A4 PFOAの禁止のきっかけの1つとなったのが、2000年にアメリカで起きた健康被害です。大手化学メーカーのデュポン社は、調理器具などを作るために、大量のPFOAを製造していました。排水に混ざったPFOAが川に流され、飲み水を汚染。周辺の住民の体内に取り込まれていったのです。PFOAと健康との関連は、工場周辺の住民7万人の調査から明らかになりました。住民たちの血液中のPFOAの濃度の平均は、アメリカ人全体の20倍に達していました。血中濃度が高い人たちでは、低い人たちに比べて、6つの病気(腎臓がん、精巣がん、潰瘍大腸炎、甲状腺疾患、妊娠性高血圧、高コルステロール)の発症率が上昇していました。
実験動物を用いた投与実験では、発ガン性、発達障害等が報告されています。
Q5 半減期はあるのですか?
A5 PFOS はストックホルム条約( POPs 条約)の対象物質であり、特にヒトにおける体内残留性の高いことが知られています。 ヒトでは血清中半減期は 5.4 年(環境省評価値)とされていますが、雄ラットでは 約 180 時間、サルでは 88-146 日と、ヒトと実験動物との間に半減期の著しい種差があります。
https://www.env.go.jp/council/09water/y095-13/mat07_2.pdf
Q6 現在も使われているのですか?
A6 製造は禁止となっていますが、使われていないとは言えません。
PFOSに関しては、欧米諸国を中心に、POPs条約に先行して2000年頃から相次いで製造や使用等が禁止されるようになりました。日本では2017年に例外用途も廃止され、PFOSは事実上全ての用途で製造への使用が禁止されています。現在はPFOSの製造・輸入量は全て0トンとなっています。
https://www.env.go.jp/water/council/49organo-fluoro/y0920-01/mat01.pdf
しかしながら、PFOS等含有の泡消火薬剤が、いまだに相当な量が保管されています。
2019年4月末から5月頭にかけて開催されたストックホルム条約第9締約国会議(COP9)において、PFOAとその塩(えん)及びPFOA関連物質を同条約の附属書A(廃絶)に追加することが決定されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000553320.pdf
ただしPFOAに関しては、特例による適用除外があり、PFOAを使っている製造品もあります。
下のURLを参照してください。
https://www.tkk-lab.jp/post/point20200703
Q7 どのような経緯で地下水に入りこんだのでしょう?
A7 地下水汚染が問題になっています。沖縄県が汚染源の可能性があると考えているのが、 アメリカ軍基地です。基地の周辺に濃度の高い場所が集中しているからです。航空機事故に備えて基地に貯蔵されている、有機フッ素化合物を含む消火剤が、消火訓練などの際に、環境中に大量に放出されます。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4280/index.html
(写真は、米軍普天間飛行場から近くを流れる宇地泊川に流失したPFOS含有の泡消火剤。2020年6月11日・毎日新聞)
京阪地域での汚染では、ダイキン工業によるPFOA環境汚染が事例として取り上げられています。(岩波書店 岩波ブックレット№1030 永遠の化学物質 水のPFAS汚染)
東京都での地下水汚染の実態は明らかになりつつありますが、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec/25/3/25_149/_pdf
汚染源の特定については、公的機関で発表されたものは現時点ではないようです。
なお、汚染経路を推測している記事はあります。
https://www.asahi.com/articles/ASMDS4Q03MDSUUPI001.html
https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotojunji/20200110-00158395/
Q8 汚染された水道水を浄化する方法があるのですか?
A8 沖縄県の那覇市などに飲料水を供給する沖縄最大の北谷浄水場では、PFOAなどの除去を行っています。浄化に使っているのは活性炭です。
https://www.eb.pref.okinawa.jp/sp/userfiles/files/page/opeb/619/h31/PFOS20190524.pdf
https://www.chatan.jp/seikatsuguide/jogesuido/oshirase/suikan2201905271752.html
Q9 現在、どのように規制されていますか?
A9 水道水における有機フッ素化合物については、法的な規制値を設定している国はなく、一部の国で目標値等が設定されているものの、検出状況の把握や最新の科学的知見の収集が現在も行われていることから、その値は各国で異なっています。
日本においては、2020年4月1日より、「PFOS及びPFOAの合算値で50ng/L以下」※とする暫定目標値※が新たに適用されています。
https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/topic/20201113-01.html.html
※:ng/Lとは、水1リットルあたり10億分の1グラムの物質が溶解していることを表します。
※:暫定目標値では、ヒトが70年間毎日2L飲用しても問題ないとされる値です。
付録
50ng/L(1リットルの水に50ナノグラム)とは、どの程度でしょうか。計算してみましょう。1円玉の重さは1グラムです。この1グラムを20等分してみましょう。お金を刻むことはできませんのでイメージしてください。
長さ50m×幅20m×深さ1mのプールがあるとしましょう。ちょっと浅目のプールで、子供用とします。このプールに1グラムの20分の1を投入すると50ng/Lになります。本当に極小量です。
1グラムの20分の1=0.05g=50㎎=50,000μg=50,000,000ng
長さ50m×幅20m×深さ1 m=1000立方メートル=1,000,000リットル
50,000,000ng/1,000,000リットル=50ng/L
2020・12・26記(文:清井端夫 遠藤保男)