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球磨川氾濫・その7 ~支流の氾濫が水害を招いた~ 水のニュース別巻

 ①多くの家屋被害を受けた球磨村茶屋集落 西日本新聞 
(多くの家屋が被害を受けた球磨村茶屋集落。7月9日 西日本新聞)

亡くなられた多くの方が支流の氾濫によるものでした
~球磨川氾濫・その7~

『今回の洪水は、先に各支流から濁流があふれ出し低地に流れこみ一時は堤防を越え、逆に球磨川に流れ込むことまで起こりました。その後、本流の上流からの流れが堤防を越えピークに達したのでしょう。犠牲になられた方々は、ほぼ全員、最初の支流の氾濫によるものと思われます。』
 
これは、清流川辺川を守る県民の会・中島 康さんが水源連に寄せた報告書(注1)からの抜粋です。それぞれの被災者の記憶を基に作成された報告書は、「7月4日球磨川水害」の克明で体験的なドキュメントです。
14名の方が犠牲になった千寿園がある球磨村渡と上瀬の様子を以下のように記載しています。

支流の小川球磨村渡(わたり)で球磨川に流れ込みます。ここの合流部には水害時のバックウォーターの為の長大な導流堤、ポンプ所がつくられ護岸工事も3mほど上げ、川幅も2倍ほどに改修されていました。球磨川沿いに国道218号線と、JR が通っており、問題の老人ホームは国道から100メートルほど上流、小川右岸に同じ高さで、堤防から20mほど離れた所に、地盤かさ上げして建てられていました。
球磨村渡周辺には7月4日とてつもない雨が降り続き、5時ごろ小川の 河口近くの右岸堤防が決壊し渡一帯が水没をはじめたようです。
5時ころには小川が氾濫し、千寿園が危ないとのことで近所に召集はかかったのですが既に道路は水没し、しかも物凄い流れのため、わずかの人しか行けず見ている目の前でご老人の方々が亡くなって行かれたのです。その後 球磨川上流での氾濫水が押し寄せ218号線わきの家並みは、津波の後かと思われるような惨状を呈するに至ったのです。

 球磨村神瀬(こうのせ)は球磨川と川内川との合流地にあります。川内川の上流は深い谷川に沿って集落のある典型的な 山里で山の斜面には、断層もみられる地盤がもろいように見られるところです。ここに降った豪雨は土砂崩れではなく山水が斜面の表土を押し流し、谷川に流れ込み土石流となって神瀬に流れ下ったようです。集落の家々は二階の天井近くまで浸水する有様です。
合流点の100mほど上流の川は、川底が護岸の堤防よりはるかに高くなっていました。』(一部省略しています)
②球磨村神瀬 
(球磨村神瀬。流木やがれきが岸辺を埋めていた。9月4日 西日本新聞)
中嶋 康さんの報告書は国と県の検証会議の不備を以下のように指摘しています。

『人吉市では20人、球磨村では25人など、球磨川流域で50人もの方々が亡くなられています。この方々が、 何時、何処でどうして、亡くなられたかを調べることで、今回の水害の全容が明らかになるはずです。
私たちの調べでは人吉の20人、球磨村の19人は球磨川からの氾濫によるものではなく支流の氾濫によるものであったと考えます。
その他の方々も亡くなられた時間がわかれば、なぜ亡くなられたかわかるでしょう。少なくとも川辺川ダム建設予定地とその上流に降った雨に起因するものではありません、何故なら、まだ被災地にその水は届いていないからです。ダム予定地から被災地まで、流れ下るのに2時間から2時間半はかかるからです。
検証委員会でのおかしな話
1 犠牲者が、何処で、何時、どうして、についての説明がない。
2 球磨川、川辺川流域の支流について、ほとんど検討がなされていない。
3 球磨川、川辺川、上流、中流域の山の状況が全く検証されていない
4 川辺川ダムのことが、何故か突然あらわれて、ダムの効果を述べるものの、
今回大きな災害を引き起こした瀬戸石ダムについては何もふれていない。
5 人吉市での球磨川のピーク流量7000トンの算出根拠が明らかにされない。』(一部省略しています)

支流の氾濫は山の問題でもある

それではなぜ支流での氾濫が起きたのか? 雨量だけの問題ではないようです。自然観察指導員の八代市在住・つる詳子さんは2つの支流の氾濫をつぶさに調査して、こう指摘しています。

『今回は支流上流から大量の土砂と水が流れ込み、合流点において流木・土石が流れを阻害し、堆積した結果、支流沿いにある道路や民家に大きな被害を出した。支流からの土砂とは、言うまでもなく、その供給源は山である。
山の異変が、今回の水害被害を甚大にしている。』(くまがわ春秋9+10月号「坂本町に何が起こったか?」より)
③がけ崩れ 
(こんな小さな崩落が至る所に見られ、土砂は市の俣川に流れ込んでいる。「坂本町に何が起こったか」より。つる詳子さん撮影)
この山の異変 どのようようなことが原因で起きるのか?

高知大学の助教・森明香さんが大変に興味深い視点を、同じ月刊誌「くまがわ春秋11月号」(注2)に発表しています。その論旨は以下のようなことです。

『球磨川豪雨災害では、流域の支流や沢筋を中心に、至るところで山の斜面の崩れが見られた。(中略) とりわけ油谷ダム・市房ダム・誓願寺ダムの上流部や山江村や旧坂本村で散見された高速道路等の橋脚付近、狭窄部での砂防ダムでの崩れが目立った。それはなぜだったのだろう。
悶々とする中で、考え方のヒントを与えてくれたのは、高田宏臣さん(注3)による「土中環境」(2020・建築資料研究社)と、長きにわたって大地の呼吸に着目した環境再生に取り組まれている造園技師・矢野智徳さんの視座であった。
彼らは、斜面の崩れの発生を、崩れることで地形を変えて安定しようとする自然の働きであるという原則に立ち、何が安定を損なわせているか、その要因を土の中の空気循環と水脈とに着目して把握し、取り除くことで自然の作用を安定に向かわせるよう、造園家としてそれぞれ実践しておられた。』(土中環境から災害を考える・前編)

崩れることで地形を安定しようとする、この自然のバランスが山の異変を引き起こしている・・要因はダムや橋脚であるらしい。
この刺激的な視座の展開は、次回の「土中環境」とはなにか? で詳しくお伝えします。

④土中環境302kb 
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注1
) 子守唄の里五木を育む清流川辺川を守る県民の会の報告書:水源連のHPでお読みください。URL中の14ページ。
daa694c1763436981a4817adbf533fd2.pdf
注2) くまがわ春秋:人吉中央出版社刊の月刊誌。09966-23-3559。つる詳子さんと森明香さんのリポートはバックナンバーを取り寄せればお読みになれます。
https://hitoyoshi.co.jp/
注3) 高田宏臣さん。高田造園設計事務所代表。著書に「これからの雑木の庭」2012年刊。「土中環境」2020年刊。
HP地球守 https://chikyumori.org/

2021・1・7記 (文 山本喜浩)   




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Tokyo no Mizu

Author:Tokyo no Mizu
プロフィル

東京都は水道水のほぼ60%を利根川水系・荒川水系に依存しています。
つまり、自給率はほぼ40%。こんな自給率で異常気象や大地震が引き起こす
災害に備えることが出来るのでしょか。
私たちは大変に危うい水行政の元で暮らしています。
これまで東京の河川・地下水の保全と有効利用をめざしてきた市民グループ、
首都圏のダム問題に取り組んできた市民グループらが結束して、
「東京の水連絡会」を設立しました。
私たちは身近な水源を大切にし、都民のための水行政を東京都に求めると同時に、
私たちの力でより良い改革を実践していきます。
東京の水環境を良くしようと考えている皆さま、私たちと共に歩み始めましょう。
2016年9月24日。        
                   
      

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