水道民営化の源流 その6
- 2021/03/28
- 20:12
~プロローグ~
非武装地帯の警備に当たっていた北朝鮮の兵士5人が韓国に潜入します。
のべつ停電する暗い寒村が駐屯地だった兵士達は、ソウルの夜景を一望して
その圧倒的な明るさに言葉を失います。
資本主義が眩いばかりの明るさで彼らの瞳を照らしたのです。
兵士の一人が、呟きます。
「俺たちが来たと知って、明るくしたんじゃないよな・・」
韓国ドラマ「愛の不時着」(注1)の象徴的なシーンです。

(ソウルの夜景。 愛の不時着第11話より)
水道の再公営化に向かう英国~その粘り強い市民運動
~水道民営化の源流~その6 山本喜浩
2008年、資本主義は歴史になりました。
北朝鮮の兵士にとって眩い“資本主義”は、リーマンショックの2008年以降、検証され解剖可能な“歴史”となりました。永い中世が終わったように資本主義というシステムもがらがらと崩れ堕ち終焉を迎えることがあるのだと人々は気づき始め、ポスト資本主義の地平線が人々の想像の内側にゆらゆらと立ち現れてきたのです。
リーマンショックの世界的な混乱から7年後、ポール・メイソンの「ポスト・キャピタリズム」(注2)が世に出ます。その序文でメイソンは、
「OECDのエコノミストは、とても気を配る人たちなので、『先進諸国では資本主義の最盛期は過ぎた。そのほかの諸国でも、私たちの生きている間に資本主義は終わるだろう』とはっきり言い切ることはないのだ。」と前置きして、
「わたしがこの本を書いた狙いは、なぜ資本主義にとって代わることが、もはやユートピア的な夢でないのか、どうすればポスト資本主義経済を早急に普及させることができるのか、を説明することである。」と、資本主義からの脱却の具体的な道筋を明記しています。
ほぼ同時期、日本では水野和夫が「資本主義の終焉と歴史の危機」を発表。
この新書本は20万部を超えるベストセラーとなりました。既読の方が多いと思いますが、その序文の書き出しはこうでした。
「資本主義の死期が近づいているのではないか。(中略)端的に言うならば、もはや地球上のどこにもフロンティアが残されていないからです。資本主義は『中心』と『周辺』で構成され、『周辺』つまりフロンティアを広げる(注3)ことによって『中心』が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステムです。」
そうです。
資本主義はフロンティアを失いました。
1979年英国でサッチャー政権が誕生した時、すでに市場は開拓し尽されフロンティアはほぼ消滅していました。

(レーガンとサッチャー。togoku netより)
サッチャーとレーガンが推し進めた“新自由主義”とは、あらゆるもの(教育・医療・交通・住宅・エネルギー資源・自然環境)を、商品化することであらたなフロンティアを創出することでした。その新たなフロンティアの捻りだしは、資本主義というシステム最後の延命策(注4)だったのかもしれません。私たちは、その延命策の進行形のさなかに乗り合わせている運の悪い乗客かもしれません。
繰り返しになりますが、周辺(外部)を失った資本主義は中央(内部)のすべてを商品化することで、内部の外部化を計ったと言い換えることもできます。
(*本稿は個人名の敬称を省略させていただきます)
水道の民営化はフロンティアのどん詰まり 同時に新たな地平への出口
水道民営化とは、内部を外部化しつくしたどん詰まりに位置するのかもしれません。もうこの先に、商品化できるものはありません。有るとすれば大気と海洋くらいでしょうか。山河はどうでしょう。
例えば河川の上流はダムという付加価値つきで商品化され国民に売りつけられていますし、下流の堤防も「スーパー堤防」などという付加価値をつけて細切れに売り出されています。中流域はこれから遊水池として商品化されることでしょう。
水道民営化したイギリスで起きていること
さて、世界に先駆けて水道の完全民営化を遂行したイギリスでは、前回(その5)で紹介したとおり、人々が水道の再公営化を切望しています。
1989年に完全民営化されてから33年、水道事業者の身勝手でデタラメな経営に市民から怒りの声があがり、2017年の世論調査では水道の再公営化を求める人が83%にものぼりました。水道だけではありません、鉄道の再公営化、エネルギー関連の再公営化を支持する人々は76%にも達しています。
しかし2019年の年末総選挙でジェレミー・コービン率いる労働党はボリス・ジョンソンの保守党に敗北。労働党が掲げた水道・電気・交通・郵便などの再公営化の訴えは実りませんでした。
実りませんでしたが、再公営化への潮流が途絶えたわけではありません。今後メインストリームに育っていく可能性が高いのです。なぜなら、運動を担っている中核が10~30代の若い世代だからです。
英国で、そんな市民会議にパネリストとして参加したトランスナショナル研究所の岸本聡子によれば(注5)、再公営化を求める草の根の市民運動には2つの代表的なグループがあるそうです。
1つは、2013年設立の「We Own It」(所有しているのは私たちだ)。
民営化されたオックスフォード市内の交通システムの改善運動を、女性がたった3人で始めた市民運動は全国に広がり、今では水道・電気・交通・郵便などの再公営化を求める大きなうねりとなっています。2020年1月に実現した北部地域の鉄道網の再国有化は、「We Own It」の運動成果のひとつということです。
もう1つは、2016年に結成された「モメンタム」。
若者たちが立ち上げた政治団体「モメンタム」の目的は、労働党のブレアが提唱した“第3の道”(注6)という資本へのすり寄りと決別して、労働党を働く市民のために民主化するためでした。かといって、「モメンタム」が労働党の下部組織ではありません。党とは絶妙な距離を保ってラジカルな政策提言を掲げているそうです。

(2019年9月に開催した「モメンタム」の政治フェス会場。マガジン9より)
水道再公営化について「モメンタム」は、現在の9つある水道会社を議会が決める値段で買い取り、流域公共水道機構へと移行。管理・運営を市民と水道労働者の手にゆだねることを提案しています。
資本が収奪した富を地域経済に取り戻す地道な運動を展開して、21世紀型の新しい社会主義を目指すとする「モメンタム」の運動は、ポスト・キャピタリズムへの道を模索する運動のひとつなのでしょう。
現在、世界各地に「モメンタム」や「We Own It」のようなムーブメントが広がり続けているのですが、そんな潮流に逆らうように・・
東京水道が先々の民営化をつぶやき始めました。
東京水道局は「東京水道経営プラン2021」なる案(注7)を2021年2月に発表しました。
このプランでは営業系業務は10年、技術系業務は20年を目途として政策連携団体へ移転するとしています。ようするに先々、水道民営化に道を開くと言っているのです。
海外の水メジャー・ヴェオリア社などはこのプランを喜々として受け取ったことでしょう。利益率の高い大都市・東京水道の運営権は喉から手が出るほど欲しいはずです。世界の水道事業は再公営化へと潮目が変わっています。日本のように民営化をこれから始めるなど、水メジャーにとって地獄で仏ならぬ砂漠でオアシスでしょう。
日本のWe Own It(所有しているのは私たちだ)は、どこから始めたらいいのでしょう。実は、もうはじめている人が沢山います。
例えば井戸。
井戸は誰でも掘ることができます。話を単純化しますと、井戸水は個人が所有することができる水資源です。
例えば太陽光発電。
誰でも太陽光で発電することは可能です。太陽光は個人が所有できる電力資源です。
しかし、井戸水や太陽光は資本にとっては不都合な資源です。
商品とは個人では作り出せない希少性を生み出すことです。商品化とは独占的に囲い込みができることでもあります。井戸は資本が独占的に囲いこめません。太陽光も資本が独占することはできません。これに反して原発は個人ではできない希少発電です。
ですから、資本はあの手この手でこれらの天然資源の囲い込みをはかります。
例えばボリビアのコチャバンバでは、アメリカの水メジャーが行政に働きかけ井戸水のくみ上げを禁止させました。コチャバンバだけではありません。水道の希少性を高めるために地下水のくみ上げを制限した例があまたあります。
日本政府が電源構成に占める自然再生エネルギーの比率を低く抑えるのも、大手電力の商品希少性を守るためであることは、みんさんご存じの通りです。
ですから、地下水源の活用や太陽光発電など市民がコントロール可能な地域経済を根付かせて、少しずつ大資本の囲い込みから自由になっていくこと。そんな小さな運動からポスト資本主義の未来が始まるのかも・・いえ、もう各地で始まっているのかもしれません。
~エピローグ~
「私が破産するくらい、この魔法のカードで好きなものを、好きなだけ買っていいわよ」と財閥令嬢からクレジットカードを渡された北の兵士5人、
半信半疑で洋品店で買い物。
陳列棚から穴あきジーンズを手にした一人が、
「こんなぼろ雑巾みたいな服を売るなんて、この国(資本主義国)は見かけよ
り貧しいんだなぁ」

(クレジットカードを手にする令嬢。愛の不時着 第13話より)
この韓国ドラマ、日本でなぜ爆発的に大ヒットしたのでしょう? 多分ですが、ジーンズに穴をあけるまでに商品化の道を進んできた私たちにとって、北の兵士の“純朴”や井戸端に集う寒村住民間の“濃密”は、はるか後方に置き忘れてきたものでした。それがドラマの展開と共に背景からふわりと浮かび上がり、私たちの何かを揺さぶったのかもしれません。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
注1) 愛の不時着:2019年12月から翌年2月に放送された韓国ドラマ。資本主義の申し子のような財閥令嬢が北の非武装地帯にパラグライダーで不時着。全体主義独裁国家の兵士や寒村住民とのミスマッチなラブコメディ。世界190ヶ国に配信され日本ではNetflixが独占配信。
注2) 「ポスト・キャピタリズム」:英国のジャーナリスト、ポール・メイソンによる2014年の著作。邦訳は東洋経済新報社から2017刊。テクノロジーの進化が知識の共有化を必然化し、留まることのない利潤率の低下はポスト資本主義を準備すると説いている。欧米でベストセラーに。
注3) フロンティアを広げる:ヨーロッパは植民地経営で外部市場を開拓。その後、いわゆる先進国は発展途上国を市場として外部を広げ続けた。20世紀後半にフロンティアを喪失した資本は、中心部の労働力を買い叩いて(非正規雇用の拡大)利潤を確保している。
注4) 延命策:資本主義は第二次大戦後、先進国の多くが福祉国家を目指すことで資本と労働の共存で生き延び、それが行き詰まって新自由主義という延命策をはかってきたとされる。
注5) 岸本聡子によれば:岸本聡子著「水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」集英社2020年3月刊。日本の改正水道法への警告から始まり欧州の水道再公営化闘争から生まれた地域政党に至るまで、
水道を縦軸にしてきたるべき市民社会の在り方を問う名著になっています。

注6) 第3の道:英国労働のブレア首相が1997年に右でも左でもない路線を第3の道として提唱。サッチャーから「可愛い私の子供」と称賛されるなど労働党の右傾化を進めることになった。日本の民主党もこの提唱を踏襲する形で一時期、第3の道を掲げた。
注7)「東京水道経営プラン2021」:以下のURLから参照してください。
https://www.gesui.metro.tokyo.lg.jp/news/pdf/2021_mihiraki.pdf
2021・3・27記
非武装地帯の警備に当たっていた北朝鮮の兵士5人が韓国に潜入します。
のべつ停電する暗い寒村が駐屯地だった兵士達は、ソウルの夜景を一望して
その圧倒的な明るさに言葉を失います。
資本主義が眩いばかりの明るさで彼らの瞳を照らしたのです。
兵士の一人が、呟きます。
「俺たちが来たと知って、明るくしたんじゃないよな・・」
韓国ドラマ「愛の不時着」(注1)の象徴的なシーンです。

(ソウルの夜景。 愛の不時着第11話より)
水道の再公営化に向かう英国~その粘り強い市民運動
~水道民営化の源流~その6 山本喜浩
2008年、資本主義は歴史になりました。
北朝鮮の兵士にとって眩い“資本主義”は、リーマンショックの2008年以降、検証され解剖可能な“歴史”となりました。永い中世が終わったように資本主義というシステムもがらがらと崩れ堕ち終焉を迎えることがあるのだと人々は気づき始め、ポスト資本主義の地平線が人々の想像の内側にゆらゆらと立ち現れてきたのです。
リーマンショックの世界的な混乱から7年後、ポール・メイソンの「ポスト・キャピタリズム」(注2)が世に出ます。その序文でメイソンは、
「OECDのエコノミストは、とても気を配る人たちなので、『先進諸国では資本主義の最盛期は過ぎた。そのほかの諸国でも、私たちの生きている間に資本主義は終わるだろう』とはっきり言い切ることはないのだ。」と前置きして、
「わたしがこの本を書いた狙いは、なぜ資本主義にとって代わることが、もはやユートピア的な夢でないのか、どうすればポスト資本主義経済を早急に普及させることができるのか、を説明することである。」と、資本主義からの脱却の具体的な道筋を明記しています。
ほぼ同時期、日本では水野和夫が「資本主義の終焉と歴史の危機」を発表。
この新書本は20万部を超えるベストセラーとなりました。既読の方が多いと思いますが、その序文の書き出しはこうでした。
「資本主義の死期が近づいているのではないか。(中略)端的に言うならば、もはや地球上のどこにもフロンティアが残されていないからです。資本主義は『中心』と『周辺』で構成され、『周辺』つまりフロンティアを広げる(注3)ことによって『中心』が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステムです。」
そうです。
資本主義はフロンティアを失いました。
1979年英国でサッチャー政権が誕生した時、すでに市場は開拓し尽されフロンティアはほぼ消滅していました。

(レーガンとサッチャー。togoku netより)
サッチャーとレーガンが推し進めた“新自由主義”とは、あらゆるもの(教育・医療・交通・住宅・エネルギー資源・自然環境)を、商品化することであらたなフロンティアを創出することでした。その新たなフロンティアの捻りだしは、資本主義というシステム最後の延命策(注4)だったのかもしれません。私たちは、その延命策の進行形のさなかに乗り合わせている運の悪い乗客かもしれません。
繰り返しになりますが、周辺(外部)を失った資本主義は中央(内部)のすべてを商品化することで、内部の外部化を計ったと言い換えることもできます。
(*本稿は個人名の敬称を省略させていただきます)
水道の民営化はフロンティアのどん詰まり 同時に新たな地平への出口
水道民営化とは、内部を外部化しつくしたどん詰まりに位置するのかもしれません。もうこの先に、商品化できるものはありません。有るとすれば大気と海洋くらいでしょうか。山河はどうでしょう。
例えば河川の上流はダムという付加価値つきで商品化され国民に売りつけられていますし、下流の堤防も「スーパー堤防」などという付加価値をつけて細切れに売り出されています。中流域はこれから遊水池として商品化されることでしょう。
水道民営化したイギリスで起きていること
さて、世界に先駆けて水道の完全民営化を遂行したイギリスでは、前回(その5)で紹介したとおり、人々が水道の再公営化を切望しています。
1989年に完全民営化されてから33年、水道事業者の身勝手でデタラメな経営に市民から怒りの声があがり、2017年の世論調査では水道の再公営化を求める人が83%にものぼりました。水道だけではありません、鉄道の再公営化、エネルギー関連の再公営化を支持する人々は76%にも達しています。
しかし2019年の年末総選挙でジェレミー・コービン率いる労働党はボリス・ジョンソンの保守党に敗北。労働党が掲げた水道・電気・交通・郵便などの再公営化の訴えは実りませんでした。
実りませんでしたが、再公営化への潮流が途絶えたわけではありません。今後メインストリームに育っていく可能性が高いのです。なぜなら、運動を担っている中核が10~30代の若い世代だからです。
英国で、そんな市民会議にパネリストとして参加したトランスナショナル研究所の岸本聡子によれば(注5)、再公営化を求める草の根の市民運動には2つの代表的なグループがあるそうです。
1つは、2013年設立の「We Own It」(所有しているのは私たちだ)。
民営化されたオックスフォード市内の交通システムの改善運動を、女性がたった3人で始めた市民運動は全国に広がり、今では水道・電気・交通・郵便などの再公営化を求める大きなうねりとなっています。2020年1月に実現した北部地域の鉄道網の再国有化は、「We Own It」の運動成果のひとつということです。
もう1つは、2016年に結成された「モメンタム」。
若者たちが立ち上げた政治団体「モメンタム」の目的は、労働党のブレアが提唱した“第3の道”(注6)という資本へのすり寄りと決別して、労働党を働く市民のために民主化するためでした。かといって、「モメンタム」が労働党の下部組織ではありません。党とは絶妙な距離を保ってラジカルな政策提言を掲げているそうです。

(2019年9月に開催した「モメンタム」の政治フェス会場。マガジン9より)
水道再公営化について「モメンタム」は、現在の9つある水道会社を議会が決める値段で買い取り、流域公共水道機構へと移行。管理・運営を市民と水道労働者の手にゆだねることを提案しています。
資本が収奪した富を地域経済に取り戻す地道な運動を展開して、21世紀型の新しい社会主義を目指すとする「モメンタム」の運動は、ポスト・キャピタリズムへの道を模索する運動のひとつなのでしょう。
現在、世界各地に「モメンタム」や「We Own It」のようなムーブメントが広がり続けているのですが、そんな潮流に逆らうように・・
東京水道が先々の民営化をつぶやき始めました。
東京水道局は「東京水道経営プラン2021」なる案(注7)を2021年2月に発表しました。
このプランでは営業系業務は10年、技術系業務は20年を目途として政策連携団体へ移転するとしています。ようするに先々、水道民営化に道を開くと言っているのです。
海外の水メジャー・ヴェオリア社などはこのプランを喜々として受け取ったことでしょう。利益率の高い大都市・東京水道の運営権は喉から手が出るほど欲しいはずです。世界の水道事業は再公営化へと潮目が変わっています。日本のように民営化をこれから始めるなど、水メジャーにとって地獄で仏ならぬ砂漠でオアシスでしょう。
日本のWe Own It(所有しているのは私たちだ)は、どこから始めたらいいのでしょう。実は、もうはじめている人が沢山います。
例えば井戸。
井戸は誰でも掘ることができます。話を単純化しますと、井戸水は個人が所有することができる水資源です。
例えば太陽光発電。
誰でも太陽光で発電することは可能です。太陽光は個人が所有できる電力資源です。
しかし、井戸水や太陽光は資本にとっては不都合な資源です。
商品とは個人では作り出せない希少性を生み出すことです。商品化とは独占的に囲い込みができることでもあります。井戸は資本が独占的に囲いこめません。太陽光も資本が独占することはできません。これに反して原発は個人ではできない希少発電です。
ですから、資本はあの手この手でこれらの天然資源の囲い込みをはかります。
例えばボリビアのコチャバンバでは、アメリカの水メジャーが行政に働きかけ井戸水のくみ上げを禁止させました。コチャバンバだけではありません。水道の希少性を高めるために地下水のくみ上げを制限した例があまたあります。
日本政府が電源構成に占める自然再生エネルギーの比率を低く抑えるのも、大手電力の商品希少性を守るためであることは、みんさんご存じの通りです。
ですから、地下水源の活用や太陽光発電など市民がコントロール可能な地域経済を根付かせて、少しずつ大資本の囲い込みから自由になっていくこと。そんな小さな運動からポスト資本主義の未来が始まるのかも・・いえ、もう各地で始まっているのかもしれません。
~エピローグ~
「私が破産するくらい、この魔法のカードで好きなものを、好きなだけ買っていいわよ」と財閥令嬢からクレジットカードを渡された北の兵士5人、
半信半疑で洋品店で買い物。
陳列棚から穴あきジーンズを手にした一人が、
「こんなぼろ雑巾みたいな服を売るなんて、この国(資本主義国)は見かけよ
り貧しいんだなぁ」

(クレジットカードを手にする令嬢。愛の不時着 第13話より)
この韓国ドラマ、日本でなぜ爆発的に大ヒットしたのでしょう? 多分ですが、ジーンズに穴をあけるまでに商品化の道を進んできた私たちにとって、北の兵士の“純朴”や井戸端に集う寒村住民間の“濃密”は、はるか後方に置き忘れてきたものでした。それがドラマの展開と共に背景からふわりと浮かび上がり、私たちの何かを揺さぶったのかもしれません。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
注1) 愛の不時着:2019年12月から翌年2月に放送された韓国ドラマ。資本主義の申し子のような財閥令嬢が北の非武装地帯にパラグライダーで不時着。全体主義独裁国家の兵士や寒村住民とのミスマッチなラブコメディ。世界190ヶ国に配信され日本ではNetflixが独占配信。
注2) 「ポスト・キャピタリズム」:英国のジャーナリスト、ポール・メイソンによる2014年の著作。邦訳は東洋経済新報社から2017刊。テクノロジーの進化が知識の共有化を必然化し、留まることのない利潤率の低下はポスト資本主義を準備すると説いている。欧米でベストセラーに。
注3) フロンティアを広げる:ヨーロッパは植民地経営で外部市場を開拓。その後、いわゆる先進国は発展途上国を市場として外部を広げ続けた。20世紀後半にフロンティアを喪失した資本は、中心部の労働力を買い叩いて(非正規雇用の拡大)利潤を確保している。
注4) 延命策:資本主義は第二次大戦後、先進国の多くが福祉国家を目指すことで資本と労働の共存で生き延び、それが行き詰まって新自由主義という延命策をはかってきたとされる。
注5) 岸本聡子によれば:岸本聡子著「水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」集英社2020年3月刊。日本の改正水道法への警告から始まり欧州の水道再公営化闘争から生まれた地域政党に至るまで、
水道を縦軸にしてきたるべき市民社会の在り方を問う名著になっています。

注6) 第3の道:英国労働のブレア首相が1997年に右でも左でもない路線を第3の道として提唱。サッチャーから「可愛い私の子供」と称賛されるなど労働党の右傾化を進めることになった。日本の民主党もこの提唱を踏襲する形で一時期、第3の道を掲げた。
注7)「東京水道経営プラン2021」:以下のURLから参照してください。
https://www.gesui.metro.tokyo.lg.jp/news/pdf/2021_mihiraki.pdf
2021・3・27記